大住良之の「この世界のコーナーエリアから」連載第58回「サッカースタジアムの力」(3)浦和を王者に押し上げた「最大の要因」埼スタの画像
2006年ワールドカップ・ドイツ大会の決勝戦が行われたベルリンの「オリンピック・スタジアム」。「ジダンの頭突き」で記憶に残るスタジアムだが、この試合が、ワールドカップ決勝戦が陸上競技型で行われる最後になるのだろうか——。 提供/大住良之

※第2回はこちらから

その国のサッカーを育むものは何か——。そこに素敵なスタジアムの存在が大きな役割を果たすことに、議論の余地はない。ファンやサポーターはスタジムとともに育ち、歌と声援によって選手やチームを強化し、クラブを発展させる。それはリーグ全体の発展に寄与することとなり、ひいてはサッカー国力の向上にもおおいに貢献するのである。良いスタジアムの効用はかくも大きい。今回は、日本サッカーの強化の一翼を担うサッカー専用スタジアムについて——。

■スタジアムのもつ大きな力

 以前、私は、日本サッカー協会Jリーグに「タッチラインの長さを103メートルにして、ゴールライン外の人工芝をなくすべきだ」と何回も提言した。ゴールラインを短くすると、ペナルティーエリアとタッチラインで囲まれた地域が狭くなり、プレーに小さからぬ影響がある。しかしフィールドの縦を2メートル短くしても誰も気づかないだろう。

 だがそうすれば永遠に芝面は106メートルのままだと、日本サッカー協会もJリーグも折れない。とても難しい問題である。

 ワールドカップの決勝戦で陸上競技場が使われたのは、過去21大会のうち8大会。1990年イタリア大会以後5大会は、アメリカン・フットボールのスタジアムを使った1994年大会以外、すべて陸上競技型のスタジアムだった。しかし2006年ドイツ大会の決勝戦がベルリンのオリンピック・スタジアム(青いトラックをもった陸上競技場)で行われた以後、決勝戦はすべてサッカー専用競技場での開催となっている。

 1974年に西ドイツで開催されたワールドカップでは9スタジアムが使われたが、サッカー専用はドルトムントひとつだけで、他はすべて陸上競技型だった。イングランドと異なり、西ドイツではスタジアムは州や都市が所有していたからだ。だが32年後、「統一ドイツ」となって迎えた2006年大会では、12スタジアム中、陸上競技型は3つだけだった。新しい時代のドイツのサッカーのためにサッカー専用の新スタジアムが必要と考えられたからだ。この大会後から、新スタジアムを舞台に、ブンデスリーガは飛躍的な発展を遂げることになる。

 21世紀のサッカーは「スタジアムの時代」である。ファン・サポーターが快適に観戦できるだけでなく、迫力あるプレーを存分に楽しめるよう、専用スタジアムの新設こそ、ファンを増やす最も大きな力になる。

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