■「サッカー選手には、W杯の前と後では、違った人生がある」
他にも面白い話がある。初戦の相手はアルゼンチンで、クラウディオ・ロペスという選手がいた。
あの試合、間違ってなければ、4万2000人の観客が入っていた。で、そのうち4万人が日本人で、2000人がアルゼンチン人だった。
で、後半が始まったばかりの時だ。サポーターから、呂比須コールが起こったんだ。“呂比須!呂比須!”
おかしかったのは、クラウディオ・ロペスがそのコールを自分のためだと思ったんだよね。それで、サポーターに手を振っていた。僕らは大笑いしてね。実際は、サポーターが岡田サンに、僕を出せと頼んでいた場面だったから。
でも、彼は僕らのチームのことなんて知らなかったんだよね。僕の名前がロペスだとも知らなかった。そして、残念ながら試合は、バティストゥータのゴールで僕らが負けてしまった。
ともかく、僕らはW杯がどういうものか、分かっていなかったんだよね。ピッチに入ったら、W杯というより、1つの重要な試合という感覚になる。天皇杯決勝や、Jリーグ最終節のようにね。
ただ、記者会見やミックスゾーンに行くと、そのイベントの大きさが分かるんだ。こんなに多くのテレビ、こんなに多くのジャーナリスト、世界中のメディアが集まっている。それほど多くの人達が見ているんだって。それで、W杯の大きさを知るんだ。
サッカー選手には、W杯の前と後では、違った人生があるように思う。国際的に認知されるし、どこへ行っても、人々が自分を知っている。そんなふうに、サッカー選手にとって、W杯とは唯一無二のイベントなんだ」