■白が多数派の時代があった

 だがJリーグが始まった1990年代、シューズはまだ圧倒的に黒だった。「カラー化」が進むのは、21世紀に突入してからだ。まず白いシューズが大流行して選手の3割から5割がはくようになった。

 このころ、私が監督を務める女子チームでも、選手の大半が白いシューズをはくようになっていた。私は流行やおしゃれで白いシューズにしたのかと思い、あるとき「靴の色よりプレーに集中しろ」と話した。同じころ、マンチェスター・ユナイテッドのアレックス・ファーガソン監督は、「ユース選手のシューズは黒以外には認めない」と宣言して話題になっていた。「おしゃれは一人前のプロになってからにしろ」という意図だった。

 だが私のチームの選手たちは、私の言葉に間髪を入れずに反応した。

 「だって、セールになっているのが、白ばかりなんだもん!」

 サッカー用具にそれほどおカネをかけられない彼女たち。ときどき、ソールがはがれかかったシューズをテープでぐるぐる巻きにしてはいているのを見るが、土のグラウンドだと特に消耗が激しいサッカーシューズは、できるだけ安く良いものを探す。だが結局、買うのはスポーツ店の店頭のワゴンに乗っているセール品になるらしい。それが白ばかりになるほど、「白」が多数派の時代になっていたのだ。

 そして2010年代にはいると、一挙にカラー化が進む。素材が牛革やカンガルー革などの天然皮革ではなく、合成皮革、極言すれば「プラスティック」になったからだ。天然皮革だと、なめした後、まず「色抜き」をしてから染料をしみ込ませるという大変な作業が必要なのだが、合成皮革なら最初からどんな色にも、またどんな模様にもすることができる。赤、青、黄色、オレンジ、ライムグリーン、ピンク、さらには「芝柄」……。こうして、サッカーピッチは春の野原のように花ざかりになったのである。

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