ピオリ監督のサッカーは、攻撃の場面でのポジショニングは流動的で、選手に裁量が与えられている。窮屈なプレーをさせられていた若い選手たちは、中断期間に戦術理解が進むと一気に力を爆発させた。
結果として、ラングニックが新指揮官としてやってくることはなくなったが、それは更なる良い結果に繋がった。ボール奪取をしたら8秒でシュートをする場面を作る、という8秒ルールで有名なそのサッカーは、勢いのある若手選手による激しいプレスが特徴だ。
ラングニックが監督に就任する場合は、強烈な個性と実力で若手を引っ張る存在であったズラタン・イブラヒモヴィッチはチームを去ることが確定的だった。また、全権監督としての招聘だったと言われており、テクニカルディレクターであるパオロ・マルディーニがチームを離れることも避けられなかった。
ミランと関係のない全権監督によって、ライプツィヒのように新たに一から強豪を作っていく、という未来もあり得たのだが、それが上手くいくのかはわからない。ハイプレスは今や普及しきって突出した特徴ではなくなっているし、リバプールが苦しんでいるように対抗策も広まっている。
現在のミランの成績よりも良い結果になったとは考えづらい。なにより、勝者のメンタリティや、ミラン、というクラブがこれまで築いてきた伝統がイブラヒモヴィッチやマルディーニから次世代に伝わらずに途絶えてしまう。
中断期間は、単なる成績の好転だけではなく、ミランというクラブのアイデンティティを喪失することを防ぐことにも繋がった。現在は、仮にピオリ監督とイブラヒモヴィッチが同時に離脱をしてもしっかりと勝ち続けることができるチームになっている。
1月に首位に立ったユナイテッドとミラン。両チームの監督には、ともに途中就任した人物であること、選手に裁量を与えるタイプであること、前任者が制限を課すタイプであったこと、解任の可能性が高まっていたこと、と共通点が多い。
特に、戦術が最重要事項として扱われるようになった現在のサッカー界で、スールシャール監督もピオリ監督も選手に裁量を与える監督であることは興味深い。
そして、どちらのクラブにも勝者のDNAが伝統として存在している。これほど戦術が進化した現代であっても、その「目に見えないもの」が世代を超えて継承されていくのか。それを見守りながら、シーズンの行方を追うことにしよう。