■“組織に勝る個人はない”
──特定の個人に頼るとチームは崩壊する。昨シーズンのFCバルセロナはまさにそうでした。
「僕が話をするなんておこがましいですけれど……(笑)。ものすごく組織立って統一されたチームに、さらに、メッシという“戦術”を持っていた特別なチームがバルセロナだったと思います。でも、監督が代わることで統一されたものが少なくなっていくと、メッシが露出し過ぎてしまう、というふうになっていったのでは」
──シャビがいなくなり、イニエスタがいなくなり、メッシがアンタッチャブルな存在になっていき、監督よりも影響を持つようになっていった……。
「強い時のバルセロナは、個人の判断でボールが回っているわけではなかった。切り替えが早くて守備がうまくて、ボール保持率が高かった。
バルセロナがトヨタカップで来日したときに試合を見に行ったんですが、守備の切り替えの早さを目の当たりにして本当にびっくりしたものです。あれがバルセロナの原点ですよね。技術的にものすごく長けた選手が、組織に順応している。素晴らしい選手が組織に合わせてサッカーをしている。組織に勝る個人はない、ということになるんだと思います」
──「組織に勝る個人はいない」は、北九州のチーム作りの考え方ですね。
「ひとりかふたりの特別な選手を入れて勝つよりも、組織立ったものをまず作り上げて、そのなかに必要な個人を入れておくようにしないと、組織は崩れると思います。たとえば、“点を取っている選手が必要で、点を取るために守備をしなくていい”とする。それがふたり、3人といたら、自分たちが取る相手に前に取られますよね。そういう時代だと思います」
──バルセロナは「クラブ以上の存在」というスローガンを掲げますが、今シーズンの北九州は「勝敗を越えた試合」をしていると思います。目を離せない魅力があります。
「2019年に監督に就任してメインスポンサーさんの挨拶まわりをしたときに、“とにかく、元気良く動くチームにしてくれ”と何度も言われました。勝負事ですから勝ち負けはあるけれど、負けても最後まで気持ちを見せる、諦めない姿勢で戦うのは大切です。
私はサンフレッチェの出身ですけれど、それは育成から叩き込まれました。自分が今までやってきたことを北九州でも選手に求めていて、諦めない姿を90分通して見せるとなれば、前からプレスをかける。前からプレッシャーをかけ続けたら自分たちのリズムで試合を運べるんじゃないかと考えて、そこは良かったですね」
小林伸二(こばやし・しんじ)
1960年8月24日、長崎県出身。1983年~90年、マツダSC(現サンフレッチェ広島)での選手生活を経て、指導者転身。1995年、サンフレッチェ広島ユースを率いてJユースカップ優勝。その後、若手選手の指導力を評価され福岡、大分のサテライト監督を歴任。2001年6月、大分のトップチームの監督に就任すると、翌年J2で優勝し、大分のJ1初昇格に貢献。2004年7月にセレッソ大阪監督に就任。2007年はアビスパ福岡のチーム統括グループ長に就任。2008年、モンテディオ山形の監督に就任し、クラブ史上初のJ1昇格を果たす。2012年、徳島ヴォルティスの監督に就任し翌年、クラブ史上初のJ1昇格を果たす。2016年、清水エスパルスの監督に就任し、1年でのJ1復帰に貢献する。2019年、ギラヴァンツ北九州の監督兼スポーツダイレクターに就任。1年でJ2昇格を成し遂げる。