「明日、移籍が決まるなら、それがベストだ」

 昨年夏のプレシーズンマッチ、バイエルン戦後に、ジダンはベイルについてそう語った。

 それは両者の関係が完全に壊れた証が示された瞬間だった。

 2013年夏にトッテナムからマドリーに移籍したベイルは、クリスティアーノ・ロナウドの後釜として期待されていた。事実、マドリーは彼の獲得に際して移籍金1億ユーロ(約124億円)を支払っている。移籍金はC・ロナウドへの配慮で公表されなかったが、ペレス会長の思惑は明らかだった。

 カリム・ベンゼマ、ベイル、C・ロナウドの「BBC」がマドリーの看板3トップとして勝利とタイトルを確約するーー。事実、マドリーはこの3選手の在籍期間中にチャンピオンズリーグで4度優勝している。ペレス会長の狙いは当たったのだ。

 だがベイルの評価は常にグレーゾーンにあった。度重なる負傷で戦列を離れ、彼をコンスタントに戦力として数えるのは現実的に難しかった。

 冒頭のジダンの言葉が嘘のように、19ー20シーズン、リーガ開幕節でベイルは先発でピッチに立っていた。最初の5試合中4試合でスタメンを飾り、シーズン前半戦のクラシコではフル出場している。しかし終わってみればリーガ16試合で2得点という凡庸な数字にとどまった。

 「昨年、僕は移籍を望んでいた。けれど、クラブが最後の最後でそれをブロックした」

 1700万ユーロというベイルの高年俸はクラブの負担になっている。だが契約期間は残り2年だ。それがベイルの売却を難しくしている。

 移籍を決めたハメスと、ジレンマに陥るベイル。状況は異なるが、最後までジダンとの溝が埋まらなかったのは確かだ。

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