FC東京は、そんな鹿島を攻め崩すためにいくつかの狙いを持っていた。まずは、前線でプレスを強めにかけること。これは、ポジショナルプレーを完全には共有できていない状態の鹿島のパスワークを寸断させるためだ。
FC東京が前線の選手を前節から変えたのは、一つには自分たちの縦に早い攻撃をするうえでフレッシュさが必要だったこともあるが、鹿島にプレスをかけ続けることも理由だったかもしれない。
そしてもう一つは、左サイドバックの永戸勝也を封じる、もしくは、その裏を狙うことだった。
鹿島の選手にあって、ある意味、永戸は異質な存在だ。昨季まで所属していたベガルタ仙台では、渡邊晋監督の下でポジショナルプレーに取り組んでいた。やり方は違えど、ポジショナルへのアレルギーは少なかったと思われる選手である。また、昨年は仙台で10アシストを記録してJ1アシスト王に輝くほどのキックの質を持つ。
逆に右サイドバックの小泉慶は本来は中央の選手で、内田篤人の引退、レギュラーを掴んでいた広瀬陸のケガによって右サイドバックのスタメンが回ってきた。特徴を出すまでに時間がかかる中、積極的に攻撃に転じて、“裏を空けてくれる”か読めない部分もあった。
この永戸を封じるために、FC東京は中村拓海、三田啓貴、原大智の3人を右サイドで近い位置でプレーさせた。さらに、GK林彰洋はゴールキックをここに蹴り、身長191㌢の原に競らせた。
現在の鹿島はサイドハーフが中に絞り、その分、サイドバックがサイドに大きく張る。そのため、永戸の裏を狙って、FC東京は選手を斜めに走らせた。永戸に“背後のケア”を意識させ、攻め上がりをけん制しつつ、攻撃としてもそこを突きたいというわけだ。
16分の荒木へのクロス、26分のエヴェラウドのシュートを導いたクロスなど、永戸は攻撃的な特徴を出した一方で、FC東京はこの周辺に集めた人数によってオウンゴールを誘発するなど、鹿島の左サイドは、試合のカギを握るエリアとなったのだ。