■試合相手は叩きのめす、ドイツ人のメンタリティー

 しかしマダガスカルの試合は別としても、オーストラリア代表や日本代表の大量点のケースは、もともと力の差があるチームとの対戦である。ワールドカップ準決勝、さらにはUEFAチャンピオンズリーグ準々決勝といった段階での大量得点とは本質的に違う。ブラジルにホームで1-7という屈辱を味わわせたドイツ代表、バルセロナを容赦なく叩きのめしたバイエルン。共通するのは「ドイツ」だ。

「ドイツでは試合相手は『敵』。叩きのめす相手としか考えない。相手が二度とサッカーなどやりたくないと思うほど叩きのめそうとする」

 7月に『サッカー批評』で紹介したインタビューのなかで、ドイツでの指導歴も長い片山博義さんはこう話している。それはドイツ・サッカーの文化でもあり、周囲を「敵」で囲まれてきたドイツの歴史が形づくったドイツ人のメンタリティーだと言う。

 バイエルン・ミュンヘンは以前から「情け容赦のない大量得点」で知られていた。ミハイロ・ペトロヴィッチ浦和レッズを指揮してJリーグのなかで隔絶した攻撃力をもっていたころ、彼は浦和の選手たちがリードするとそれを守ろうという意識が強くなるのを嘆き、たびたびバイエルンの映像を見せて、「リードしたらもう1点、そして2点差になったら3点差にしなければならない」と説いた。

 2019/20シーズンのブンデスリーガでバイエルンが3点以上を記録したのは19試合。実に全試合の56%に当たっている。4点以上の得点も13試合、38%に当たる。もっとも、ブンデスリーガで8連覇という圧倒的な成績を考えれば、同じブンデスリーガ1部といってもバイエルンと勝負ができるチームはほとんどなく、バイエルンの力が隔絶していることは明白で、力の差が大量点になって表れているといってもいいかもしれない。ちょうど、今季のJリーグで川崎フロンターレが独走し、年間100ゴールを突破しそうな勢いを、バイエルンはブンデスリーガで8シーズンも続けているのだ。

後編に続く

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