■2019年王者F・マリノスの攻略法
選手層が厚いチームつまりビッグクラブがこのイレギュラーなシーズンの主役になることは間違いない。だが、個々のゲームを見れば、下位チームが上位を倒す“下克上”をいつものシーズン以上に期待できるのではないか。
J1リーグ連覇を狙う横浜F・マリノスは昨年の優勝メンバーの大半が残留した。そして、「欧州クラブへ移るのではないか」とも噂されたアンジェ・ポステコグルー監督もチームに残った。同監督就任以来磨き上げてきた超攻撃的なスタイルの完成度は上がり、昨年の終盤はすっかり守備力も強化されており、今季も優勝候補筆頭と思われていた。
しかし、横浜は2月の開幕戦でガンバ大阪の巧みな守備戦術の前に不覚を取ってしまった。G大阪は中盤では横浜にボールを持たせておき、パスを出すスペースを一つひとつ丁寧に埋めていくことで横浜のパスコースを限定して、横浜の強力な攻撃を封じてしまったのだ。宮本恒靖監督としては「してやったり」というゲームだったろう。
そもそも、相手を分析してストロングポイントを消していくのがJリーグのサッカーだ。ACLで横浜と対戦した全北現代やシドニーFCが、横浜の変幻自在の攻撃を止めることができず、混乱に陥ってしまったのと比較すれば、Jリーグというリーグがどんなに厳しいリーグか分かろうというものだ。
当然、どの相手も前年王者横浜のことは徹底して研究してくる。両サイドバック(松原健とティーラトン)が相手陣内のバイタルエリアまで侵入してラストパスを通すといった、横浜の独特の攻撃サッカーは対戦相手の監督にとっては戦術的な腕の見せ所にもなる。
昨年、松本山雅はJ1残留を果たせなかったが、ロングボールを使って王者横浜FMを苦しめた。
松本山雅は中盤では横浜にボールを持たせて守備を固めた。そして、ボールを奪うと、横浜のサイドバックの頭上を狙ってロングボールを蹴り込んできたのだ。ゴール前の中央付近は守備範囲の広いチアゴ・マルチンスが1人でカバーできるが、さすがにタッチライン際を狙われると苦しくなる。当然、横浜のサイドバックは攻め上がろうとするところを狙われるから、上下動を繰り返すことになる。
松本山雅としてはそこでセカンドボールを拾えればカウンターの形を作ることができるし、攻撃につなげられなくても横浜の「サイドバックのインナーラップ」という攻め手を消し、サイドバックの体力を消耗させることができるのだ。
残念ながら、松本山雅はセカンドボールを十分に拾えなかったので攻撃が中途半端に終わり、0対1で敗れてしまったが、残留争いをしているチームであっても戦術的工夫を駆使すれば首位のチームを苦しめることができるということを証明した。
松本山雅を率いていたのは、戦術分析が大好きな反町康治監督(現日本サッカー協会技術委員長)だった。思い切った戦術サッカーを仕掛けることを躊躇う人物ではない。
(※後編へ続く)