「ポストコロナ社会とスポーツ観戦」(前編)
写真:西村尚己/アフロスポーツ

まさにいま、社会が激しく動いている。それに伴ってスポーツ観戦も大きく変わろうとしている。コロナウイルスは時代の変化のスピードを速めたのかもしれない。再開するJリーグを見通し、さらに、近未来のスポーツの姿を考える。

■適切だった初期の対応

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大防止のために2月末から中断していたJリーグが、いよいよ6月27日に再開される(J1リーグの再開は7月4日)。

 一方、ヨーロッパでは、すでにドイツのブンデスリーガが5月16日に再開され、6月に入ってスペインのラ・リーガもこれに続き、さらにイングランドのプレミアリーグやイタリアのセリエAといったヨーロッパ主要各国のリーグ戦も順次再開される。いずれも、すべて無観客での開催である。

 感染者数や死者数が日本と比べて桁違いに大きいスペインやイタリア、イングランドで6月中旬までにリーグ戦が再開されたのに対して、Jリーグは再開を6月末まで遅らせた。ヨーロッパ諸国と比べれば、かなり慎重な対応だったと言っていい。

 感染症に対するこうしたきわめて慎重な態度(あるいは「感染者数を限りなくゼロに近づけたい」という意識の強さ)こそが、まさに日本における感染被害が小さかったことの理由の一つでもあった(日本など東アジア諸国で感染被害が小さかったことの原因、すなわち山中伸弥教授の言う「ファクターX」については諸説ある)。

 同時に、ヨーロッパ各国が早期にリーグ戦を再開できたのは、各国のリーグ戦が残り10試合程度だったからでもある。ヨーロッパ諸国は「秋春制」なので、2019年秋に開幕したリーグ戦は、中断に追い込まれた時点ですでに日程の3分の2ほどを終了していたのだ。従って、あと10節ほどを消化すればシーズンオフに入れるのだ。

 それに対して、開幕直後に中断したJ1リーグは残りが33節、J2リーグに至っては残りは41節もある。つまり、ほぼ1シーズンすべてが残っており、12月まで6か月もの長丁場となるのだ。そのため、より慎重な姿勢で臨む必要があったのだろう。

 以前にも取り上げたことがあるが、Jリーグはこれまでのところ新型コロナウイルス対策についてきわめて迅速かつ適切に対応してきた。

 政府がまだ「イベントの自粛は必要ない」としていた2月25日に、Jリーグはいち早く「第2節以降の延期」を決定。安倍晋三首相が「国内のスポーツ・文化イベントの自粛を要請する」との考えを示したのは翌2月26日のことだった。

 Jリーグは3月3日にはプロ野球(NPB)と連携した「新型コロナウイルス対策連絡会議」を開いて情報を共有し、さらに専門家チームの助言を受けながら再開に向けてさまざまなシミュレーションを行って、準備をしながら再開のタイミングを見計らってきた。数万人規模の観衆を入れて興行を行うという意味で、似たような課題を持ち、また共有可能な多くの情報を持つプロ野球といち早く連携したのは素晴らしい決断だった。

 しかし、Jリーグやプロ野球の思惑を超えて新型コロナウイルス感染症の流行は拡大を続け、4月7日には7つの都府県に対して国が緊急事態宣言を発令。緊急事態宣言は16日には全都道府県に拡大された。こうして、リーグ戦の再開は延期を重ねざるを得なくなり、全クラブが活動を休止する事態に陥った。

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