■「全員検査」いう英断

 結局、緊急事態宣言が全都道府県で解除されたのは5月25日までズレ込んでしまう。こうして、全クラブがトレーニングを再開したのを受けて、プロ野球とJリーグが開幕・再開の日程を決めたのだ。プロ野球とJリーグの差は、サッカーの方がボディーコンタクトを伴うより激しい競技なので、長い準備期間が必要だったからだ。

 当初はJ1からJ3まで同時に再開(開幕)を目指したが、J1場合は首都圏のクラブが多く、首都圏では最後まで緊急事態宣言が解除されず、その結果、練習の再開が遅くなったことが理由だった。また、J1とJ2とでは残り試合数が違うことも影響したのかもしれない。このあたりは、妥当な判断と言っていい。

 Jリーグは、5月29日にオンラインで臨時実行委員会を開いて再開の日程を決定すると同時に、再開前に選手や審判員など最大で3680人に対してPCR検査を実施し、その後も2週間に一度の割合で全員検査を繰り返すことを決めた(陽性者や発熱者などは試合に出場できない)。

 これは、きわめて重要な決断だったと言えよう。「全員検査」という方法を日本で初めて打ち出したのがJリーグだったからである。

 この感染症が問題となってから、日本ではPCR検査は症状が出た場合あるいは感染者と濃厚接触があった場合にのみ実施されてきた。当初は「発熱して4日が経過」することが検査実施の条件ですらあった。現在では発症1日前から発症直後が最も感染力が高く、発症から4日経過した患者では感染力がすでに落ちていることが分かってきているのだが……。

 もちろん、この新型ウイルスについてはまったく情報が不足していたので、当初の対応に不備があったことは仕方がないが、検査体制が充実してきた現在でも「発症者あるいは感染のリスクが高い濃厚接触者のみを検査対象とする」という基本姿勢は変わっていない。つまり、日本においてはPCR検査というのはあくまでも「治療のための検査」だったのだ。

 だが、ちょうどJリーグの再開が決まる頃になって検査体制はようやく充実してきた。とくに唾液をサンプルとしてPCR検査を行うことが承認されたので検査数を大幅に増やすことができるようになった。そこで、JリーグはPCRセンターを設けて情報を一元管理しながら「全員検査による感染リスクの軽減」という方向に舵を切ったのだ。

 こうした「全員検査」という形で“攻めの検査”を実施するのは、日本ではJリーグが初めてだった(その後、6月7日には小池百合子東京都知事が国と協議して、いわゆる「夜の街」を対象に全員検査を行うと決めた。また、プロ野球の場合は、実際に何人かの選手が感染したことが判明した後の6月8日になって全員検査の実施を決めた)。

 こうした積極的な感染防止策も講じることによって、Jリーグはついに再開に漕ぎつけたのだ。Jリーグのここまでの対応は高く評価していいだろう。

 ちなみに、Jリーグが3000人以上の一定の被験者を対象に定期的に行うPCR検査から得られる情報は新型コロナウイルスについての科学的知識を深めるためにも大いに利用できるはずだ。

  1. 1
  2. 2
  3. 3