この時点で既に、彼自身の“ゴール”は、J1の試合に出ることではとどまらなくなっていた。事実、2016年シーズンはカップ戦だけでなく、リーグ戦でも出場機会をつかむ。同年のJ1・1stステージ第7節、ビハインドを負った状態でのアウェイ・浦和レッズ戦でJ1リーグ戦デビューを果たす。そして2ndステージ第12節・ヴァンフォーレ甲府戦では、ついにJ1初ゴールを決める。左からのクロスに、全身を投げ出してヘディングシュートを決めたのだ。「狙っていたポジションをとったらクロスが来ました」とこの試合の同点弾を振り返ったが、そのまま同点に終わった試合に対し、「勝てた試合。自分のゴールよりチームの勝点3の方が大事」と、喜びよりも悔やしさをあらわにした。ただゴールを決めるのでなく、勝利につながるゴールを決めることへ、視線は移っていた。

 一歩一歩成長を続けていた西村が、その成長曲線の勾配を急に上げていったのが、2017年だった。

 この年に、仙台は基本フォーメーションを3-4-2-1に変更する。指揮4季目となっていた渡邉監督は、長期的なヴィジョンのもとで、チーム全体の選手配置を流動的にしながらボールを支配したり、守備で相手を囲んだりするスタイル作りを進めていた。その「いい立ち位置をとる」(渡邉監督)ための初期配置が3-4-2-1になったことが、西村にも影響を与えた。

 前年までの基本フォーメーションである4-4-2で西村は、主に2トップの一角を務めていた。3-4-2-1では、「2」の部分、換言すればシャドーを担当することになった。

 当時の彼にとって、「サッカーをやってきて、初めてプレーしたところ」。未知のポジションでは当初、戸惑いも多かったそうだが、試合を重ねるにつれてシャドーこそが、可能性を高めるポジションとなった。ゴールから逆算したプレーを、周囲との関係性の中で発揮。「視野が広がりました」と語るように、活動範囲を拡大。前後左右にいる味方のポジションをいち早くとらえたり、それまでの駆け引きの対象が相手DFだけだったのが相手ボランチなどさらに周りの選手も含めて駆け引きするようになったりと、相手チームにとって“イヤな選手”に変貌した。

 かつて、ゴールに突進するストライカーだった選手は、その突進の起点となる場所をいち早く見定め、ポジションを取れるようになる。自身がゴールに関与するだけでなく、攻守両面で味方をサポートする位置に立てるようになった。

 特に、JリーグYBCルヴァンカップで活躍。西村は2ゴール2アシストという数字を残して仙台のクラブ史上初のベスト4進出に貢献した。若手の登竜門とされる同大会ニューヒーロー賞に選出されると同時に、シーズン終了後には〈Jリーグの次世代を担う若い選手層の育成〉を謳った” TAG HEUER YOUNG GUNS AWARD”にも選ばれている。

 だが、そんな栄誉にも「まだまだです。チームのタイトルを取りたかったし、そういうチームに貢献する選手としての結果を出したい」と満足するそぶりも見せなかった。

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