■広いか狭いかコーナーエリア
サッカーのルールでは、「ラインはエリアの一部」と考えられている。ボールを置くときには、4分の1円内に完全に収まっている必要はない。上から見て、ボールの投影面がラインに少しでもかかっていればいい。すなわち、見る角度によっては、ボールは完全にエリアの外にある場合もある。よく副審が上からのぞき込むように置かれたボールを見ているのは、エリアにかかっているか、正確に見極めるためだ。
ジョージ・ベストの写真を見て、「ピッチの隅の隅」と言っていいコーナーエリアが意外に大きいと気づいた人もいるのではないか。4つ合わせてもピッチ全体の0.044%(約2274分の1)の広さしかないコーナーエリア。側に人がいないと小さく見えるが、試みに部屋のなかで半径1ヤードの4分の1円を描いてみると、予想外に大きいことがわかる。
私が監督をしている女子チームのある選手が、ある試合で異様なCKのけり方をした。彼女は右利きなのだが、左CKをけるとき、タッチライン側のコーナーエリアの隅にボールを置き、コーナーフラッグとの間に体を入れるように走り込んで右足でけったのだ。
私はゴールライン側に置いたらと注意したのだが、「そっちは助走のスペースがない」と言うので任せることにした。しかしいくら小柄な女子選手でも、このけり方は窮屈なようで、3本に1本も思ったところにけることができなかった(と推測する。なにしろ、彼女がどこにけりたいのか、いちいち聞くことなどできなかったからだ)。
だが、それでも、私のチームの女子選手は幸運であると言える。日本でサッカーをしているからだ。現行のサッカー・ルールによれば、コーナーエリアの半径は「1メートル(1ヤード)」となっている。
ちょっと待ってくれ。1ヤードはけっして1メートルではない。現在国際的に決められた基準によれば、1ヤードは0.9144メートル、すなわち91センチあまりに過ぎないのである。
「母国」に敬意を表し、サッカーのルールでは、「メートル法」だけでなく、いまではイギリスやアメリカなどでしか使われない「ヤード・ポンド法」の規格も併記されている。ゴールが、「幅7.32メートル(8ヤード)、高さ2.44メートル(8フィート)」というように「近似値」が使われているのだが、最も差が大きいのが、コーナーエリアの「1メートル=1ヤード」なのである。
というわけで、プレミアリーグの選手たちは、Jリーグの選手たちより9センチ近くも小さなコーナーエリアからボールをけっているということになる。
だがこんなことを問題にした者は、誰もいない。サッカーは本来「アバウト」なゲームだからだ。「3Dオフサイドライン」か何か知らないが、ビデオアシスタントレフェリー(VAR)が「3ミリ出ている」とするようなことがサッカーの進歩だとは、私はまったく思わない。
ジョージ・ベストだって、何も文句を言わず、91.44センチしかないコーナーエリアにボールを置き、祖国北アイルランドに同点ゴールをもたらすことだけに集中していたではないか。