今年のFIFAは日本のイメージ
「サッカーボールを描いてみて」
そう求められたら、あなたはどんなボールを描くだろうか――。
私なら、丸の真ん中に正五角形を描いて黒く塗り、その5つの頂点から円周の近くまで線を伸ばすと、それぞれ線の先から円周に向けて2本の線を120度の角度で円周に向かって広げる。そしてその2本の線と円周で囲まれた5つの部分を黒く塗れば完成だ。20秒もかからない。これで立派にサッカーボールに見える(はずだ)。
こんな馬鹿げたことで世界を回っているようで申し訳ないが、私は外国の取材先でさまざまな人にサッカーボールを描いてもらう。すると不思議なことに、ほぼ例外なく、私と同じような白黒ボールを描くのである。「白黒ボールはサッカーのアイデンティティー」と言っても過言ではない。(ちなみに、YouTubeには何十もの「サッカーボールの描き方」の動画があるが、その大半が白黒ボールである)
しかし現在、白黒ボールを使っているリーグが、世界のどこにあるだろう?
ことしのJリーグ試合球はアディダスの『ツバサ(TSUBASA)』である。『ツバサ』は2019年末のFIFAクラブワールドカップ(カタール)以後、2020年に開催されるFIFAの大会のすべて使用されることになっていた。もちろん、東京オリンピックもこのボールが使われることになっていた。
日本のサッカーの象徴である「八咫烏(やたがらす)」がデザインの元になっているというが、世界的な人気を誇る日本の漫画・アニメ『キャプテン翼』(原作・高橋陽一)を思い起こさせる名称がキーであるのは間違いない。いずれにしろ「日本イメージ」なのだが、そのデザインは「白黒ボール」とはほど遠い。
驚くべき事実は、1992年の「ナビスコ杯」から始まったJリーグの歴史で、「白黒ボール」が使われたことはいちどもないということである。
だが、試みに「Jリーグ時代になってサッカーを見るようになった」という人に「描いてみて」と頼んでも、おそらく95%以上の人が「白黒ボール」を描くだろう。それほど、世界中の人びとの頭には、「サッカーと言えば白黒ボール」というイメージが刷り込まれているのだ。だが、いつから?