■自由で平等なクラブの関係
「姉妹都市」のようなものと言えばわかりやすいだろうか。
中世の欧州にも別々の国の町同士が商業や文化で特別な関係を結ぶということがあったようだが、現在のように姉妹都市が世界中に広まり始めたのは20世紀後半、2回にわたる世界大戦を経てからだった。とくに「元敵同士」の平和と和解を推し進めることで異なる文化間の友情と理解を促進し、貿易や観光を奨励しようとしたものだった。
いまでは世界中に無数の姉妹都市が存在している。姉妹都市との交流事業で短期留学したという人も少なくないのではないか。
これを世界中のサッカークラブに適用しようというのが、私のアイデアだ。
世界には、「姉妹都市」のほかに「双子都市」や「兄弟都市」という言い方もあるようだが、多くの言語では「都市」を意味する単語は「女性名詞」にあたるため、自然に「姉妹都市」という言葉が一般化したと思われる。
だが「クラブ」は「男性名詞」。だから「兄弟クラブ」ということになる。女子チーム同士なら「姉妹クラブ」でもいいかもしれないが……。
「クラブclub」という名詞は、サッカーの世界的な広まりとともに英語がそのまま世界に広まった言葉である。ドイツでは「フェラインVerein」という言葉が使われることが多い(しかしバイエルン・ミュンヘンはそのエンブレムにあるとおり「FCバイエルン」である)が、他ではほとんどの国で「クラブ」がそのまま使われている。誰がつくったのか知らないが、「倶楽部(ともに楽しむ)」という漢字を当てた日本人は天才だ。この漢字表記は、いまでも中国で使われている。そして、英語や日本語の名詞には男性女性の区別がないが、区別のある他の言語ではこの「外来語」を「男性名詞」としているのだ。
さて、私のアイデアとは、世界中のサッカークラブを「強制的」に「兄弟」にしてしまおうというのである。その割り当てはFIFAが行う。
世界には、年間収益が1000億円に届こうかという「巨大クラブ」から、十数人のメンバーの会費だけで運営されている私の女子チームのような「微小クラブ」まで、数多くのクラブが存在する。それらのクラブは各国のサッカー協会に加盟しており、各国のサッカー協会はFIFAに加盟している。現時点ではFIFAの下に全世界の加盟クラブの名簿などないだろうが、加盟211協会から集めようとすればほぼ一瞬のうちに集められるはずだ。
何十万になるかわからないが、その世界中のクラブをたとえば1000の単位で無作為に「兄弟クラブ」にしてしまう。「兄弟」であることを示すために、クラブ名に「愛称」を割り当てる。Jリーグのクラブは、商標登録の関係上、「チーム愛称」を考えるのに相当苦労したようだが、それに付け加えるだけだから「愛称」は何でもいい。植物の名前、鉱物の名前……。
たとえば、「浦和レッドダイヤモンズ」は、「浦和“ローズ”レッドダイヤモンズ」となる。世界中に1000の「ローズ・クラブ」が生まれ、そのすべてが浦和レッズの「兄弟クラブ」となる。それはドイツの小さな町のクラブであるかもしれないし、2016年にFIFAの最も新しい加盟国となったジブラルタルに4つしかない女子クラブのひとつかもしれない。ともかく、世界中のそうしたクラブが、一夜のうちに「兄弟」となってしまうのである。