■世界の動きとの整合性

 さて、「秋春制」の最大のメリットはヨーロッパ諸国のシーズン制と合わせることができる点だった。

 だが、今後、ヨーロッパの方でもシーズン制変更論が出てくる可能性もある。

 ヨーロッパでサッカーが「秋春制」で実施されているのは、歴史・伝統と文化によるものだ。

 サッカーの原型が中世の英国各地で行われていた「民俗フットボール」だということはご承知だろう。

 明確なルールもなく、町の男たちが(時には女たちも)2つの“チーム”に分かれてボールの奪い合いをするという乱暴な遊び(またはお祭り)だった。そして、そのフットボールはほとんどの町で、宗教上の暦に合わせて真冬に行われていた。

 その後、19世紀の初めにフットボールがパブリックスクール(上流階級の子弟向けの全寮制の学校)で教育の一環として取り入れられ、ルールも整備されていったのだが、それでも「フットボールは冬のスポーツ」という観念が強く、19世紀には「夏はクリケット。冬はフットボール」とシーズンが明確に分けられていたのだ。

 その後、フットボールがプロ化されて人気スポーツとなっていったため、試合数が増やされ、シーズンも次第に長期化され、その結果、夏の終わりに開幕して初夏に終了する「秋春制」となった。

 考えてみれば、ヨーロッパ諸国では冬場はまことに厳しい気象条件に見舞われる。イングランドでは正月にもプレミアリーグの試合が開催されるが、冷たい雨に見舞われる厳しい条件の中での試合を見かけることも多い。また、さらに寒さの厳しいドイツなどではかなり長期の「ウィンター・ブレーク」を設けなければならない。

 一方、ヨーロッパ諸国の場合、日本に比べれば夏場はかなり過ごしやすい。

 もちろん、夏なので猛暑に見舞われる日も多い(温暖化のせいか、ヨーロッパでもやはり暑い日が年々多くなっている)。しかし、日本のような高温多湿とは違うし、猛暑が長期間続くわけではなく、夏でも寒さを感じる日もある。

 つまり、気象条件だけを考えれば、ヨーロッパでこそ「春秋制」を実施した方がいいのだ。そうはなっていないのは、歴史・伝統と文化のせいであり、また、「夏は仕事は休んで長期のバケーション(避暑)に行く」という習慣があるせいだ。

 だが、新型コロナウイルス感染の影響で、ヨーロッパのいくつかの国では今年の夏に「サマー・フットボール」を経験することになる。そうなると、ヨーロッパの中からも「『春秋制』に移行した方がいいのではないか」という声が出てくる可能性もある。実際、『Webサッカー批評』でも、先日「欧州サッカー衝撃の『春秋』開催案」という記事が出ていた。FIFAのヴィタリー・モンタリアーニ副会長がインタビューで語ったというのだが、「サマー・フットボール」を経験した後には、そのような議論があちこちから出てくるのは間違いない。

 実は、「サマー・フットボール」という提案は、僕が海外のサッカーに興味を持ち始めた半世紀ほど前から、時々報じられてきていた。もちろん、ヨーロッパでは「フットボールは冬のもの」という意識が強いから、「サマー・フットボール」の提案は、これまでは文字通り一顧だにされなかった。

 だが、昔はヨーロッパの熱心なフットボール・ファンはどんな悪天候も厭わず、あるいは旧式のスタジアムの劣悪な観戦環境も意に介さずに、愛するクラブのサポートに通ったものだが、最近はファミリー層の観客も増え、観戦環境の快適性が重視されるようになってきている。

 とすれば、新型コロナウイルス感染の影響によって、2020年の夏にフットボール観戦を体験したヨーロッパ人が「サマー・フットボール」の快適性を実感するかもしれない。そして、2022年ワールドカップの11月開催という状況も視野に入れて、本格的な「サマー・フットボール」の導入、つまり「春秋制」への移行が議論されるようになるかもしれない。

 つまり、ヨーロッパ諸国のシーズン制に合わせるためにJリーグが「秋春制」に移行したら、すぐにヨーロッパ諸国のシーズン制が「春秋制」に変更になってしまったなどという事態も考えられるのだ。

 そうした、さまざまな条件を考えながら結論を出さなければいけない問題なのだが、とりあえず今シーズン、実験的に「秋春制」を実施してみたらいかがなものだろう?

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