インタビューという大きな仕事を終えてほっとした日、タバレスは「明日の練習は紅白戦だよ」と教えてくれた。
私の頭が、まるで時計の針を逆回転させるために地球をぐるぐる回るスーパーマンのように猛スピードで回転した。「ゴールのチャンスとは、突然現れる虹のようなものだ。一瞬遅れたら消えてしまい、つかむことなどできない」。長沼健さんからこんな意味のことを聞いた気がするが、そのときの私は、見事に一瞬の虹をつかんだ。
「マエストロ、お願いがあります」
「何ですか」
「練習試合をするなら、レギュラー組に第1ユニホームを着せ、サブ組には他の色のユニホームを着せてください」
「問題ないよ」
「もうひとつ。レギュラー組のユニホームは、スポンサーのロゴマークがついていないものにしてもらえませんか」
私はトヨタカップの取材に来ていた。沢辺カメラマンの撮影する写真は、大会の宣伝や公式プログラムに使われる予定だった。言うまでもないが、「トヨタカップ」の大会スポンサーはトヨタ自動車である。だがあろうことか、この年の南米チャンピオン、ペニャロールのメインスポンサーは、ドイツの車メーカー、「フォルクスワーゲン」であったのだ。ユニホームの胸には、大きな○に「VW」の文字がはいった有名なロゴマークが描かれていた。
私はユニホームの胸に何がついていようと競技には関係がないと考えるタイプの人間である。しかしそうした「非常識」の私でさえ、「さすがにトヨタカップにフォルクスワーゲンはまずいよな」程度の分別はあった。
「マエストロ」はすぐに私の意図を察してくれた。
「なるほどね。ではトヨタのマークでも付けるかな。100万ドルでどうだい?」
繰り返すが、このやりとりは近藤篤さんが通訳してくれた。彼のスペイン語は、生まれ故郷である「IMABARI」がまるで南米のどこかの町であるかのように流ちょうだった。