1999 FIFAワールドユース選手権の顔写真付きアクレデーション(大会取材許可証)
1999 FIFAワールドユース選手権の顔写真付きアクレデーション(大会取材許可証)
生涯観戦数は6400試合を超え、世界中のあらゆる場所でサッカーを観戦してきた後藤健生さん。その貴重な体験をつづる連載「蹴球放浪記」。1999年、ワールドユース選手権が開催されたナイジェリアを訪ねた後藤さんは、天孫降臨の地まで足を延ばした。ホテルで雇ったタクシーには、なぜか、運転手の友人と称する男が同乗していた。

 ナイジェリアは現在の人口が約2億人という大国です。そこに暮らしている民族の数は300とも500とも言われていますが、南西部のヨルバ人、北部のハウサ人、南東部のイボ人が「三大民族」と言われています。ヨルバ人に言わせると「俺たちは芸術や音楽には強いけどスポーツはからっきしだな。スポーツは何と言ってもイボ人だ」ということですが、実はイボ人の地域が早くから植民地化されたため、西欧式の学校やキリスト教教会を通じて早い時期から近代スポーツに親しんでいたからというのが真相のようで、最近はヨルバ人やハウサ人の選手も増えています。

 ヨルバ人の神話によると、彼らの先祖は天から降ってきたんだそうです。まあ、そういう神話を持っている民族は世界的にいくらでもいるでしょう。日本の神様だって高天原から「天孫降臨」してきたわけですから。

 1999年の4月、ワールドユース選手権(現在のU-20ワールドカップ)の準々決勝で日本はメキシコと対戦することになりました。会場はナイジェリア南西部の大都市イバダンでした。ヨルバ人の先祖のオランミヤンが天から降ってきた「天孫降臨」の場所はイフェという街で、イバダンからわずか60キロくらいの所でした。

 そこで、メキシコ戦が行われる日の午前中にイフェまで行ってみることにしました。

 ナイジェリアのホテル前には専属のタクシーがいつも客待ちしています。街中で拾うのと違って専属タクシーなら安全というわけで、3000ナイラ(約3500円くらい)を払って朝から出かけることにしました。当日、タクシーがやって来ましたが、なぜか運転手の友人と言う男も付いてきました(本当は「あちらが2人、こちらが1人」というシチュエーションは危険なのですが……)。2人ともムスリム(イスラム教徒)だと言っていました。

 熱帯雨林の中を抜けてイフェの街の中心まで行くと、「オニ」と呼ばれるイフェの王様の宮殿がありました。ヨルバ人の社会では現在でも各都市に王様がいます。「王様と会えないかなぁ」と思っていたんですが、残念ながらオニはロンドンに行っていて留守でした。門番をしていた警官に500ナイラを渡すと警官はガイドに早変わりして、宮殿内をくまなく案内してくれました。

 そして、宮殿の庭の一角にトタン屋根の下にコンクリートで周囲を囲った児童公園の砂場のようなものがあって、泥の上に石がゴロゴロと転がっていました。そう、ここが「天孫降臨」の現場なんですね。あっけないほどひっそりした場所でした。

  1. 1
  2. 2