選手補強成功の秘訣は「我慢して見守ること」

 選手獲得の上で一番大事にしていることは監督との信頼関係だ。お互いがしっかりと理解するまで話し合いを行い、必要であれば一日中会議室にこもり、クラブにとっ
て一番の選手を絞り込んでいく。もちろん、ピッチの中で見せる選手のタレントが最初に獲得選手を見極めるフィルターであり、ボールコントロール、シュート、利き足、
ヘディングの強さ、今後の伸びしろといったいくつもの評価項目から判断する。次に獲得に必要な費用を確認し、経済的に捻出できる範囲である場合、ピッチ外で問題を起こさないかどうか、ロッカールームに溶け込んでいけるかどうかといった性格や言語適正、そして年齢などの一個人としての情報を加味して獲得を決定している。

「選手発掘の仕事だが、まずはシーズンを大きく二つに分けている。12月までがそれぞれのリーグで気になる選手をピックアップするステージで、4月までにその中からチームに必要なポジションを中心に選手を絞り込んでいく作業をしている」

 2人で行っていた情報収集も2016年の現在、16人のチームへと成長した。以前に比べれば少なくはなったが、今でも可能な限り自分の目で選手を確認するためスタジアムに足を運んでいる。そして、信頼できる仲間を手にした今、モンチは欧州、南米を中心とした約30カ国の1部リーグ、そして全世界の代表、下部カテゴリーの大会に参加する選手のパフォーマンスを把握することが可能になった。

 綿密な調査をしたとしても補強は水物だ。前のクラブで良くてもセビージャで活躍する保証はないし、セビージャで活躍できなくても移籍先のクラブで活躍をすることもある。それでもモンチの連れてきた選手たちはセビージャで輝く選手たちが多い。今のメンバーで言えばマリアーノやエンゾンジがその代表的な選手であり、歴史を紐解けば、ストライカーとして高く評されているガメイロ、バッカ、カヌーテ、ルイス・ファビアーノらがその選手たちである。そしてダニエル・アルベス、バティスタ、クリホビアクなど、セビージャ加入前は無名の存在だったが、アンダルシアのクラブでのパフォーマンスで世界トップへと飛躍した選手たちだ。名前を挙げればきりがない…だからこそ、今ではセビージャの補強リストに名前を連ねることは、その選手の成功を約束するものだとも言われるほどになった。

 なぜ、セビージャはこんなに選手補強で成功を収めているのか。モンチの答えは簡単だった。

ラモン・ロドリゲス・ベルデホ
通称モンチ。人生の半分以上となる29年をセビージャで過ごしているスポーツゼネラルディレクター(肩書きは本人談)。10年間の現役時代はマラドーナやシューケルといった世界のスーパースターとロッカールームを共有していたが、今では欧州のビッグクラブがロッカールームのメンバー編成を託したいと願うスーパーSD。発掘した無名選手がチーム退団時に高額の違約金をクラブに残していくことから、セビージャの現代のミダス王(ギリシャ神話に登場した触るもの全てを金に変えることができた王)と経済誌からも賞賛を受けている。


※第2回に続く
(この記事は2016年10月28日に発行された『サッカー批評83』(双葉社)に掲載されたものです)
 

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