■警官隊が果たした役割

 混乱が少し落ち着いたのは、午後2時45分、国王ジョージ5世(後のエリザベス女王の祖父)がロイヤルボックスに姿を見せたときだった。国歌演奏が始まるとスタンドとピッチを埋めたファンも直立して一斉に歌い、大歓声とともに人々は落ち着きを取り戻した。その後選手たちがピッチに入ってファンにタッチラインとゴールラインの外に出るように説得、群集は次第に動いていった。

 そこに登場したのが、騎馬警官隊だった。なかでも灰色の毛を持った大型馬に乗った警官はよく目立ち、落ち着きを取り戻してピッチは次第にクリアになった。その間、イベントのために用意されていた合唱団が『日暮れて四方は暗く』という静かな賛美歌を歌うと、群集はさらに落ち着き、3時30分過ぎにようやくすべてのファンがピッチ外に出た。

 ゴールラインとタッチラインのすぐ外までぎっしり人で埋まるという異常な形だったが、試合は午後3時45分にキックオフされ、ボルトンが前半と後半に1点ずつ得点を挙げ、2-0で勝利を飾った。FAが前言を翻し、この試合を正式にこの年のFAカップ決勝とすると両クラブに伝えたのは、ハーフタイムだったと言われている。

 観客数は、公式には、12万6047人とされている。しかし多くの人の証言から、約30万人が入場したのではないかというのが現在も定説となっている。そして最終的に群集をライン外に出した騎馬警官の乗った馬が当時のニュース映像では「白馬」に見えたことで、「ホワイトホース・ファイナル」の名で呼ばれるようになる。ウェンブリーは、こけら落としの日に「伝説」を生んだのである。

つづく

 

(4)へ続く
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