■イタリア王者と「引き分け」るも…
もちろん、だからと言って、グランヴィルがアーセナルに甘かったわけではない。1991年、プレシーズンのミニトーナメントの1回戦(準決勝)でアーセナルがパナシナイコス(ギリシャ)に1-0で辛勝した試合では、彼はアーセナルを酷評した。
数日後、「決勝戦」の相手はイタリア・チャンピオンのサンプドリアだった。「プレミアリーグ」が生まれる前夜のことである。当時は、世界のスターはイタリアのセリエAに集まっており、「フーリガン」のために荒れ果てていたイングランドリーグとの力量差は歴然と見られていた。しかしアーセナルは奮闘し、1-1の引き分けに持ち込んだ。PK戦で敗れたものの、アーセナルのジョージ・グラハム監督は「今日は評価してもらえるだろう」と記者会見にやってきた。
だが、いつものように会見室の最前列中央に陣取ったグランヴィルの質問は、やはり厳しかった。最終的にその試合のレポートでも、「アーセナルにはサッカーの質が欠けている」と書いた。厳しい質問の後に、グランヴィルはグラハムに「新シーズンの成功を祈ります」と丁寧に語った。グラハムは「そうだね、では今シーズンは脚本の質を高めるよう努力しよう、ブライアン」。そう言って、彼は席を立った。精いっぱいの強がりだった。
グラハムの手が会見室から出るドアのノブにかかったとき、「心配ないよ、ジョージ」と、グランヴィルが声を上げた。「何かいいことが見つかったら、それについて書くよ」。声優、俳優としても活動したことがあるグランヴィウの声はよく通った。