
「実際の効果はどうなのか、あまり聞いたことがないやり方ですけど、でも、本人がそれで調子が上がるというならやっていきたいですよ」
これは、川崎フロンターレの樋口創太郎コンディショニングコーチ(以下、樋口CC)に、“新しい取り組み”について投げかけた時の答えだ。その発端は、4月13日に伊藤達哉が明かしてくれた言葉にある。
麻生グラウンドの芝が雨で濡れたこの日、クラブハウスの玄関先で伊藤に話を聞いた。今季からJリーグに初挑戦をしている伊藤は、それまで海外でプレー。1週間に1試合というペースで続けたこれまでのプロ人生だっただけに、日本での過密日程に慣れない部分もあったと明かす。
その中で、伊藤自ら樋口CCに提案したことがあった。
「次の試合まであと何時間かを尋ねるから、その都度、教えてほしい」
自分で調べれば分かるものだが、それをあえて人からの言葉で聞くことによって脳と体に伝えようとしたのだ。
「体は大丈夫なんですけど、頭がやっぱり……。選手みんな違うと思いますけど、僕は例えばじゃあ明日試合だっていって急に頭が入るというよりは、例えば今までだったら試合をしてから次の試合へとゆっくり時間をかけて試合モード入っていくっていうか」
そう話す伊藤にとって、Jリーグでの連戦にさらに慣れるうえでの新しい取り組みが「試合までの時間を自らに聞かせること」だった。そしてこれが功を奏す。「自分の中ではけっこう良くて。助かりました」と話し、試合への入り方が変わったという。
「樋口さんは多分面倒くさいと思っていると思いますけど(苦笑)」
こうも話すように、伊藤によれば、樋口CCの顔を見るたびに“時間”を聞いていたそうだ。その結果、樋口CCはLINEでも“時間”を知らせるようになった。選手のコンディション向上のためであれば――樋口CCの熱さが伝わるエピソードだった。