■試合内外で受け継がれていくもの
川崎のよさの一つは、年齢や立場を超えて選手から選手に伝えること、そして、高め合うことでもある。24年の沖縄キャンプでは家長昭博が高井幸大に念入りに腰の使い方を教えている姿が印象的だった。実際に動いて見せるだけでなく、言葉でも伝える。その様子を横で見ていて、家長特有の鬼キープの理由の一端を垣間見えた気がしたし、自身の“武器”を後輩に教えることの寛容さも見えた。
先述した佐々木旭も、試合に出られない時期に何度も登里享平の名前を口にしていた。「ノボリさんの動きや頭の中を参考にして、自分らしく」と繰り返し話しては、先輩の“業”を自らに採り入れようとしていた。
ピッチ上で記憶に残った瞬間もある。コロナの影響で観客席が埋まっていない中、小林悠がプロ1年目の旗手怜央に逆サイドの選手としてのゴール前への入り方を激しく“指導”していたのは2020年のこと。試合内外にかかわらず、川崎の強さはそうして受け継がれてきた。
川崎でプロキャリアに終止符を打つこととなった元フランス代表FWバフェティンビ・ゴミス氏に引退の理由を直接聞いた時に、「神田奏真のような未来ある選手に譲るべきだ」と話していたことも思い出される。このクラブに来る選手は経緯や時期にかかわらずそれぞれに高め合い、そしてリスペクトしているのだ。
選手間でのそうしたやり取りは、チームメイトであると考えれば受け入れやすいが、同時にライバルであるとも考えると、賞賛すべき行為だ。それが自然とできているからこそ、多くのタイトルを獲得しているといえる。
(取材・文/中地拓也)
【その3「中山和也通訳」へつづく】