
本場ヨーロッパでのサッカー取材は、蹴球放浪家・後藤健生の気持ちを高揚させる。スタジアムのみならず、環境が気分を盛り上げるのだが、そのひとつがトラムである。蹴球放浪家にとって、トラム=路面電車は単なる移動手段ではない。
■東京には「さくらトラム」だけ
市内をトラム(路面電車)が走り回る姿。それは、非常にヨーロッパ的な光景です。
昔は東京や横浜にも路面電車(都電、市電)が網の目のように走っていましたが、自動車優先で次々と廃止されてバス路線に変わっていきました。現在、東京には専用軌道を走る「荒川線(東京さくらトラム)」だけが残っています。
ヨーロッパの多くの都市でトラムは健在です。
僕が初めてヨーロッパのトラムを目撃したのは、1972年の秋に「クイズグランプリ」(フジテレビ)に優勝して、賞品のヨーロッパ旅行に行ったときでした。最初に訪れたロンドンは、地下鉄の街でトラムは見かけませんでしたが、次に訪れたイタリアではローマでも、ミラノでも数多くのトラムが走っていました。
オレンジの塗装の、相当な年代物の車両が走っており、もちろん「乗ってみたいなぁ」と思ったのですが、そこは昔流の団体旅行。毎日、バスであちこちの観光地を見て歩く日程だったので、トラムはお預けでした。
その後、ヨーロッパにしょっちゅう通う身になってからは、トラムやバスを乗り回すことになります。
しかし、いちばん心が引かれるのは人生で最初に見かけたローマやミラノのトラムです。