■まったく別の答えが表すチームとしての強み
最後に聞いたのが伊藤達哉である。伊藤は「他の選手は笑ってましたけど、僕は怒っていました。勝ったから良かったですけど、あの場面はチャンスだったので」「しかも審判に抗議してたんですよ。あのファールスローでなんで抗議できんのって、ちょっと腹が立ちました」と、厳しめの答えを言葉にした。
伊藤は、“自身がちょうど試合に入るタイミングだったためにスイッチを入れていたからそのように感じた”、と、辛口になった理由についての自己分析も加えている。
今回聞いた3人は、それぞれまったく別の答えだった。そして、それが川崎の多彩さをも示すように感じられた。
大島のように、周囲がどのように判断するかを冷静に求めようとする見方もあれば、大関・山田の関係性のような柔らかい関係性だからこそユーモアたっぷりに発信しようとする部分もある。そして、伊藤のように勝利をしっかりと見据えた捉え方もある。
山田のスローインは必死にプレーしていた中で出たもので、言ってみれば、ピッチ上でパスやトラップがズレたことと同じもの。攻めの場面でそうしたズレが出ればチャンスは遠のくからこそ正確なプレーを求められるが、それが必ずしもできないのがサッカーという競技でもある。
一つの考え方だけよりも多くの考え方を内包しているほうが、困難にぶつかっても修正をしやすい。今回のファウルスローはその投げ方が笑いを誘ってしまうものだったこともあって面白く捉えることもできるが、一方で、チームの多彩さをも照らすこととなった。
冷静さとユーモアと厳しさ――この3つを表に出せる選手が同時にいるということは、流れが良いときにはチームをピリっとさせ、流れが悪いときには雰囲気を柔らかくさせることができる。いずれかだけではない強みを、ACLEファイナルズを目前としている中で見せたといえる。
(取材・文/中地拓也)