■862人の死傷者「ヒルズブラの悲劇」
イングランドのファンがこのスタジアムを「特別の場所」であると感じるのは、数多くのFAカップの準決勝の舞台となってきた点にある。1戦制、中立地開催が原則の準決勝は、2008年以降はすべてロンドンのウェンブリー・スタジアムで行われているが、その前にはいくつかのクラブのスタジアムが使われてきた。そして準決勝開催回数がバーミンガムの「ビラパーク(アストンビラ所有)」の57試合に次ぐのが、「ヒルズブラ」の34回なのである。
そして同時に、1989年4月のFAカップ準決勝、リバプール対ノッティンガム・フォレスト戦で起きた「ヒルズブラの悲劇」は、永遠に忘れることのできない出来事となった。
当時のヒルズブラは5万4000人収容。ノッティンガムのサポーターはスムーズに入場できたが、リバプールのサポーターに割り当てられた観客席の入場ゲートには「ターンスタイル」と呼ばれる一人ずつカウントしながら入場させる設備の数が少なく、キックオフが近づいても入場を待つ人が長蛇の列をつくり、押し合いの状況になっていた。選手入場時の大歓声で入場を待つ人々が興奮状態になったため、警備担当者が退場のための大きなゲートを開放。それを見たサポーターがスタジアム内に走り込んだ。
さらに開始直後のリバプールのシュートに場内が沸くと、彼らは通路を走ってピッチ前まで侵入した。しかし、最前部のフェンスで道を塞がれる。そこに次々と入ってくる後続のサポーターが押しかけた。最初に走り込んだサポーターたちは押しつぶされ、呼吸もできなくなり、結果として96人もが亡くなり、重軽傷者766人という大惨事になってしまったのである。
試合は即座に中止され、マンチェスター・ユナイテッドのオールドトラフォード・スタジアムで再試合が行われた。