■長野で名乗った「コンディショニングコーチ」

 樋口氏は1983年に北海道で生まれた。故郷でトレーナーとして活動の幅を広げている中で、2016年にAC長野パルセイロ・レディースのコンディショニングコーチに就任した。それまで、同クラブにはフィジカル面での専門家がおらず、かつて、このクラブのアカデミーに関わったことが縁となって信州に移り住んだ。
 ミッションは明確だった。いかに前十字靭帯の損傷者を出さないか、である。
 この年、パルセイロ・レディースは1部に昇格を決めており、戦力を整えてシーズンに挑まなければならなかった。しかし、チームには懸念があった。それまで毎年、3人ずつ前十字靭帯を損傷する選手が出ていたのだ。
「1年間サッカーできない選手が3人いることになる。それを毎年繰り返していたら、1部リーグを戦えない」
 クラブのその危機感が、樋口氏を北海道から長野へと招聘することとなった。
 女子サッカーにおいては、環境が必ずしも十分ではないケースも多い。それだけに、「選手にとって分からないことを、その競技人生の中で初めて伝えるという立場もありました」と当時を振り返る。与えられたミッションと、女子サッカーにも浸透させたいフィジカル知識の重要さ。その2つに、使命感を燃やした。

  1. 1
  2. 2
  3. 3