大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第152回【「サッカーが戦争を止めた日」血塗られた世界に伝えたいクリスマスの奇跡】(3)西部戦線で「10万人」が交流、仲間を叱責した「未来の独裁者」と100年後の勝者の画像
今年のEUROで優勝したのは、今回のコラムの主人公、ドイツとイングランドをそれぞれ準々決勝(ドイツ代表)、そして決勝(イングランド代表)で破ったスペイン代表。バルセロナで活躍する新星ヤマル(写真)がチームを優勝へと導いた。撮影/原壮史(Sony α1使用)
「クリスマスに読みたい」サッカーが起こした奇跡の物語

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は、サッカーが起こした「聖なる夜の奇跡」について。

■両陣営合わせて「10万人」に達した

 もちろん、こうした「クリスマス停戦」の風景が、500キロ以上にもなる「西部戦線」で一斉に見られたわけではない。しかし、けっして特別な場所だけで行われたわけでもなかった。戦線のいたるところで「連合軍」と「同盟軍」の兵士たちが銃を塹壕に置いて交流し、歌を歌い合ったり、プレゼントを交換した。そして多くの場所で、サッカーが行われた。

 ドイツ兵がボールを持ち出してきたところもあった。だが、きちんとしたサッカーボールなどないところが大半だった。そんな場所でも、空きカンを蹴り合ってゲームに興じた。

 西部戦線全体を通じると、このときの「クリスマス停戦」に参加した兵士たちは、両陣営を合わせて10万人に達したのではないかと言われている。ある研究者によると、塹壕を出てドイツ兵と交歓したイギリス兵は3万人ほどで、実際にサッカーをプレーしたのは、ほんの一部だっただろうという。

 不幸な出来事もあった。パーシー・ハギンズという名のイギリス軍二等兵は、「無人地帯」の散歩を楽しんでいたときにドイツ軍の狙撃兵に撃たれ、頭を打ち抜かれて死亡した。彼を救おうとした軍曹も、同じ狙撃兵の犠牲になった。

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