■夜遅くにホワイトボード
冒頭で触れたその姿を見たとき、鬼木達監督自身もふつうの人と同じようにプレッシャーや葛藤を抱えながら、指導や選手選考をしていることを改めて感じた。
たしかにその敗戦はとても痛いものだった。その試合後会見で鬼木監督は、やはり自身に矢印を向けていた。自身の選択を、さまざまな面から追及しているようだった。
観ている側は思う。なぜこの起用なのか、なぜこのタイミングでの交代策なのか、なぜこのシステムなのか。その試合でも、SNS上の意見はそうしたものが並んだ。言うは易いが、その裏でどれほどの熟慮を重ねているか。多くのことを考えながら選択し、そして、その全責任を全身全霊で負うことが、いかに難しいか。
鬼木達監督と長く一緒にやってきたある選手の話も思い出される。たまたま夜遅くにクラブハウスに寄ったところ、ちょうど鬼木監督が帰るところだったという。翌日も通常通りの練習だったというが、その手に持っていたのはホワイトボードだったというのだ。
後に鬼木監督にその話をすれば、「たまたまですよ。いつもではないですよ」と笑顔を見せたが、24時間体制でチームのことを考えていたのに違いない。