■蔚山戦にまつわる3つの笑顔

 ここまで2つの“表情”を紹介したが、やはり印象的なのは笑顔。それは遠征先でも変わらない。最後に、蔚山戦にまつわる笑顔を3つ紹介したい。
 1つ目は、23年のアウェイ・蔚山戦でのもの。この試合前日は、“アウェイの洗礼”というべきか午前10時に街から遠く離れたホテルで記者会見を行い、夕方16時からスタジアムでの練習という流れだった。その午前の会見に向かった際、思った以上に遠く、そしてタクシーが渋滞にはまってしまったため、到着したのは予定開始時刻5分前のこと。ホテル内では走って会見場まで向かったが、その部屋の手前の椅子に座って「大丈夫、まだ始まってないですよ」と笑顔で声をかけてくれたのが鬼木監督だった。
 どうやら会見の準備が終わっておらず、その手前で待たなければいけなかったよう。筆者の姿を見て落ち着かせてくれた。
 2つ目は、今年の蔚山戦の前日だ。筆者は空港から直接練習場に直行。スーツケースを持って選手がたまるエリアの直前まで行き、撮影機材の準備をしていると、「来ましたね」と笑顔を見せてくれた。隣国とはいえ、海外に入国して直後に見せてもらったその表情はとても安心させられた。
 3つ目は、12月3日、等々力競技場内にある『Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu ギャラリー』を内覧させてもらったときのこと。川崎フロンターレの歴史が詰まったその“博物館”とも言えるその展示物を前に、鬼木監督もとても感慨深げだった。そして、「蔚山の展示物が多いな(笑)」とやはり笑顔を見せていた。
 こうして思い出していくと、鬼木監督にまつわるエピソードは他にも数多い。そして、人間として勉強させてもらうことがとても多かった。感謝の気持ちを抱きつつ、残り2試合も取材したい。
(取材・文/中地拓也)

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