■「声が通りづらい状況だった」

 敵地へ7000人近くが駆けつけた清水サポーターが大声をとどろかせ続け、負ければJ3降格が決まる栃木のサポーターも必死に応戦する。右サイドバックで先発していた原は「声が通りづらい状況だったので」と“神ブロック”を振り返った。
「沖も試合を通してずっと声を出していて、あの場面ではもう潰れた感じで声が出ていなかった。ジェラ(住吉)も非常に責任感が強い選手で、2人が重なるような形になるかもしれない、というのが横から見ていてわかったので」
 自分に任せろ、といった沖の声はかすれて住吉にまず通らない。ボールの落下点だけを目視して下がってきた住吉も、自分の背後に飛び出してきた沖の存在にまったく気がつかない。危ない、という周囲の声も、もちろん2人には聞こえない。
 気がついたときには、原は自らの体をシュートコースへ投げ出していた。
「あのときは最悪のケースを考えて、ゴールのカバーに入りました。結果的にそれが正解になって本当によかったと思っています」
 8分のアディショナルタイムを守り切り、勝利とともに2年越しの悲願だったJ1昇格を決めた直後。試合終了直前にPKを献上して東京ヴェルディに追いつかれ、悪夢の引き分けとともに昇格を逃した昨シーズンのJ1昇格プレーオフ決勝の二の舞を、本能に導かれたブロックで防いだ原へ沖が感謝の声をかけた。
「ありがとう。助かったよ」
 笑顔を浮かべた原の左腕には、赤いキャプテンマークが巻かれていた。副キャプテンの一人であるMFカルリーニョス・ジュニオにまず託され、乾に代わって途中出場した今シーズンのキャプテン、FW北川航也の左腕に戻っていた腕章は13分後の83分に、予期せぬ展開の末に副キャプテンの原へ託されていた。
(取材・文/藤江直人)

(2)へ続く
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