■「あまり前で背負わないように」

 小林が言葉にした「泥臭さ」は、蔚山戦の90分間、川崎の選手の心に突き刺さっていた。というのも、ピッチコンディションの悪さは想定以上。まともにサッカーができる状態ではなかった。土がむき出しになる箇所もあるピッチで、文字通りの“泥臭さ”を体現した。

 小林に芝の状況を聞けば、「いやあ……もう……」と言葉に詰まり、「初めてぐらい悪かったかもしれないです。アップのときとか、もう笑っちゃうぐらいに普通のボールがポンポンポンってはねて。ギリギリまで見ないと本当にトラップが難しいですし、バウンドがすごい跳ねる」と説明する有り様だった。

 だからこそ、小林には「あまり前で背負わないように」という指示が出ていたという。「相手も強いので、ちょっと落ちてっていう作戦だったんです。でも、相手が前から来たことで落ちる時間がなくて、それを狙ったプレーは何回かしかできなかったんです。このピッチコンディションだったのでくさびを受けるのもかなり難しいですし」

 事前の想定をしながらも、それでもうまく行かなかった場合にどうするかを、百戦錬磨のベテランはピッチの上で解決できる。落ちて起点になることができないならば、「それよりも、相手のパス回しに対して前からプレスをかけることで、相手のキックミスを誘発してこっちがカットしてチャンスっていうのを何回かできたので、途中からそっちに頭を切り替えました」と明かす。

「特に左のセンターの選手はけっこう大きくてうまかったですけど、右に持たせるとやっぱりちょっとチャンスになってたので、後半からはそこに狙いを定めてプレスをかけるように意識していました」
 頼れるベテランのプレーが、流れを確実に川崎に引き寄せていた。

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