なでしこジャパンに「ブラジル戦」逆転勝利をもたらした「力道山サッカー」(1)失われた北川ひかると清水梨紗、「最後の交代」とトップ下・長谷川唯の画像
最後の交代でボランチからトップ下にポジションを上げ、プレーの質とキレが良くなった長谷川唯(左)。そして、ブラジルを破る原動力となり、一躍、ヒロインに躍り出た19歳(右)。撮影/渡辺航滋(Sony α‐1)

 初戦のスペイン戦で敗北。第2戦のブラジル戦でも負けると、グループステージ突破が厳しくなる(各グループの1位2位と、A・B・C3グループの3位のうち、成績上位2チームがノックアウトステージに進出)なでしこジャパン。そんな大一番で、起死回生の勝利をつかんだチームを、サッカージャーナリストの大住良之は、「力道山サッカーで勝った」と愛情を込めて言う。その意味するところは? 勝負の分かれ目とともに、試合を見ていこう。

PKセーブで「悪役」が息を吹き返した

 私の子どもの頃、日本中の男たちが熱狂していたのがプロ野球とプロレスだった。プロ野球では長嶋茂雄と王貞治が打ちまくり、プロレスでは力道山がアメリカ人の悪役レスラーをやっつけて、敗戦国・日本の鬱憤を晴らしていた。
 パリ・オリンピックの女子第2戦、ブラジル×なでしこジャパンの前半が終わる頃、「これは力道山時代のプロレスだな」と考えていた。
 ブラジルはフィジカルな戦闘力をもったチームだった。どの選手も例外なくフィジカルが強く、体の大きな選手も多く、日本がプレーしようとすると体をぶつけ、足を蹴って妨害し、攻勢をとった。
 だが、そのパワーも30分を過ぎた頃から低下し、なでしこジャパンのパスのリズムが上がって攻撃がシュートまで行くようになって、「形勢逆転で勝利か」と思ったのだ。
 しかし、前半アディショナルタイムにPKが防がれたことで、「悪役」が息を吹き返した。

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