■IOCの財政を支える「NBCからの収入」
IOCはオリンピックの人気拡大のため、テレビ映りの良い(あるいは若者向けの)新競技を次々と加えてきた(パリ大会ではブレイキンという種目が加わり、日本の某公共放送局もだいぶ力を入れているようだ)。
IOCの財政を支えるのがオリンピック競技大会からの収入であり、とくに重要なのがテレビ放映権料、中でも、アメリカの3大ネットワークの一つNBCからの収入だ。NBCは2032年大会までの夏季冬季オリンピック競技大会の放映権を獲得しており、IOCに対して総額76億5000万ドルという巨費を支払っている(円安ドル高の現在のレートで計算すれば、1兆2000億円を超える)。
そのため、NBCの発言権はきわめて大きい。
1964年の東京大会は、開催地東京の気候を考慮して10月に開催されたが、2021年の東京大会は酷暑に見舞われる7月から8月の開催だった。
これは、IOC憲章で「7~8月開催」が定められているからだが、それはアメリカのネットワークの要求によるものだ。アメリカのいわゆる4大プロスポーツは野球の大リーグ(MLB)を除いて、夏はシーズンオフとなる。また、MLBのヤマ場もプレーオフが始まる秋以降。つまり、夏場はアメリカのテレビ局にとってはスポーツ・コンテンツに乏しい時期に当たる。
そこで、アメリカ側はオリンピックの夏開催を要求するのだ。
なお、バスケットボールのNBAはオリンピックがシーズン開幕前に行われるのでNBA傘下の選手たちをオリンピックに参加させることができるし、アメリカはNBA選抜のドリームチームをアメリカ代表としてオリンピックに派遣する。
一方、シーズン中のMLBは傘下の選手をオリンピックに派遣することはできず、もしパリ大会で野球が実施されていたとしても大谷翔平は参加できないのだ(2028年のロサンゼルス大会では野球も実施されるが、地元開催なのでMLBもオリンピック参加に前向きと言われている)。
また、アメリカでの人気種目をアメリカ時間のプライムタイムに生中継で放映するために、水泳などの決勝種目が現地時間の午前中に行われるなど、「プレーヤー・ファースト」とは言えないような運営もなされている。