■鬼木監督の「経験と勘」が訴えたもの
この試合では、いつも以上に強く感じさせるものがあった。それは気迫と言うべきもので、個々の中にある感情を時間とともに表現していった。前半は苦しい時間も長かったが、選手やポジションを入れ替えながら糸口を探っていった。佐々木旭はCBからSBにポジションを移し、家長昭博もたびたびプレー位置を変えている。ポジションが移ろうとも、組む選手が変わろうとも、前への気持ちを最後まで見せた。
会見場に座る鬼木達監督に筆者が聞いたのは、その気持ちについて。いつもの気迫がさらに強まっているように見えたが、どんな気持ちでこの試合に挑んだのか。そして、選手の姿をどう感じたのか。
小林悠のギラギラ感、家長の献身さ、山田を送り出す鬼木監督の力強い握手。他にも候補はあったもののこの3つを例に出して聞くと、指揮官は「このゲームは自分たちにとって非常に大きなゲームだと話して送り出しています」と答え始める。
そして、「経験なのか勘なのか分かりませんけれども、今日のゲームはチャンスだと思ってました。このゲームでしっかりとチャンスを掴まなきゃいけない、全身全霊で戦って勝点3を取ることで、必ず自分たちが目指している“てっぺん”にたどり着くためのきっかけになるゲームにしたいという思いと、そういうふうにできるんじゃないかと、ここまでの彼らの取り組みを見てそういう話をしました」と続ける。
さらに、「勝点3まではたどり着かなかったですけれども、それでも次に繋がる闘志や目に見えない部分、そういう数字じゃ表せないようなところ」が見られたとも話す。
このクラブの全てのタイトルをもたらしてきた指揮官の“経験と勘”は、たしかだ。リードしたわずか1分間ではあったが、間違いなく、このチームにある本来の気持ちをさらに表面に引っ張り出した。だからこそ、誰もが勝ちたいと強く思った。不振の中にあって、先述したような山田新の気持ちはまさにそれだ。
(取材・文/中地拓也)
(後編へ続く)