勢い、という言葉は抽象的だ。気持ち、という言葉もそうだろう。スプリントや走行距離など、多くのものが数値化される現代サッカーにおいてもこれらの言葉は数値化されていないし、今後もされないだろう。
しかし、そうした言葉を使わなければ表せないものがある。小林悠がゴールを決めることで周囲に与える影響はとても大きい。作家の伊坂幸太郎は、その作品の中で“人間の最大の武器”を「信頼と習慣」と書いている。それに倣えば、小林の影響の大きさというものは積み上げてきたそれに違いない。事実、合計140というゴールは信頼に値する数字以外のなにものでもない。
リーグ通算ゴール数を139としてカズこと三浦知良(ポルトガル2部オリベイレンセ)の記録と並んだのは、昨年11月12日のことだ。京都サンガF.C.から奪ったゴールで、それ以降は、負傷もあって単独の記録にすることができていなかった。
それに区切りをつけたのが4月28日のJ1リーグ第10節で、サンフレッチェ広島から奪ったゴールである。この試合で、背番号11はベンチからスタートした。ピッチに立ったのは後半の開始時点から。前半、苦しい時間を過ごして1点を追う状況にあったチームにあって、鬼木達監督は流れを変えるべくピッチに送り出した。求めたであろうものはシンプルにゴールと、そして、チームに与える勢いだったのではないか。