■「2点差以上で勝とう」と話していたが…
後半開始とともに、清水はシステムを変更する。キックオフ直後は前半と同じ4-2-3-1に見えたが、数分後には3-4-2-1へ立ち位置を変えた。シーズン中から何度も見せてきた可変である。違和感はなかった。
そのなかで、63分にPKを得る。ペナルティエリア内で東京VのMF森田晃樹がハンドを取られたこの場面については、MF白崎凌兵の「多少ラッキーな部分もあったと思う」という感触が共感を得られるだろう。とはいえ、この日はVARが導入されている。ハンドがあったことは間違いなく、重圧のかかかる一撃をFWチアゴ・サンタナが冷静に、ゴール右隅に決めてみせた。
残り時間は30分ほどである。秋葉監督は「2点差以上で勝とうと話していましたし、85分までは守るつもりはまったくないと選手たちには伝えていました。先に点を取ったからと言って、守るつもりはまったくなかったです」と話している。
ただ、1対0にしてからの清水は、明らかに守備重視となってしまった。秋葉監督は「おうおうにして点を取ったチームはメンタル的なのか、ゲームのあやなのか、どうしても押し込まれてしまう。それは残念だったなと。我々としては2点目を取りにいく、2点目を取ってゲームを決めるプランでした」と語ったが、先行したあとの清水は決定機を作り出せていない。
秋葉監督は70分と83分に2枚替えを行ない、チームを活性化させようとした。だが、大きな変化は訪れない。
それでも1対0のまま終盤を迎え、アディショナルタイムに突入した。ダブルボランチの一角を担った白崎も「得点をしたあとはやっぱり、3バックというか5バックっぽくしたので、全体的に少し後ろに重くなって、ある程度相手に持たれる場面がありました」と話す。
そのうえで、「ピッチの中でしっかり声もかかっていたし、危ない場所はチームとしてうまく締めていたので、そこまで怖さはなかった。失点のひとつ前にクロスからギリギリのところでかきだした場面(89分)、ホントあの1本は危なかったですけど、あそこ以外はそんなに怖さはなかった」と続けた。
アディショナルタイムの8分を持ちこたえれば、清水は1年でのJ1復帰を果たすことができる。しかし、90+4分だった。相手FW染野唯月に対応したCB高橋祐治が、ペナルティエリア内左でスライディングする。染野が倒れる。わずかな間のあとで、主審はホイッスルを吹く。
PKである。
清水のサポーターがゴール裏からプレッシャーをかけるなかで、GK大久保択生が守るゴールが染野に破られる。清水は1対1の同点に追いつかれた。このままでは上がれない。
数分後、試合終了の笛が鳴る。アウェイ用のシルバーのユニフォームに身を包んだ清水の選手たちは、ある者はピッチに崩れ落ち、ある者は呆然と立ち尽くした。
すべてが終わり、清水はJ1昇格を逃した。