サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は「コーチを救う、よだれかけ」。
■始まりは「ゼッケン」
英国でカメラマン用のビブスをヒントにコーチたちがトレーニングで取り入れるようになったのを知り、1970年代には、日本でもカメラマンに、次いでサッカーのトレーニングにビブスが採り入れされるようになった。しかし最初は「ゼッケン」と呼んでいた。
「ゼッケン」というのは、もしかしたら死語になりつつある言葉だが、陸上競技の選手や競走馬につけるナンバーを記した布を指す言葉だ。日本語としての歴史はそう古いものではなく、大正時代に一般化したといわれているので、せいぜい100年ちょっとということだろう。
語源は明確ではない。ドイツ語の「デッケン(『覆う』という意味。競走馬の鞍の下に敷く番号札として使われた)」なのか、「ツァイヒェン(標識)」なのか、イタリア語の「ツェッキーノ(中世ベネチアの金貨。これに似たものを競走馬の番号札で用いた)」なのか、はたまた外国語ふうの和製語なのか、議論が続いていた。
しかし最近は「デッケン」説が有力なようだ。筑波大学の伊與田康雄名誉教授が2015年8月に『筑波経済月報』で発表した「スポーツ用語 面白い旅」によると、明治41(1908)年に北海道大学に赴任したドイツ語講師ハンス・コーラーがアルパインスキーを持ち込み、学生に教えた。このころの学生が馬の腹帯のデッケンを「ゼッケン」と呼び、一般に使われるようになったという。