パレスチナでの紛争に、世界が不安の目を向けている。その影響を、日本も他人事とは考えていられない。サッカー界でも、中東は存在感を増している。良くも悪くも中東が影響を与えるサッカー界でのパワーバランスについて、サッカージャーナリスト・後藤健生がつづる。
■中東でのW杯、再び
2034年のワールドカップ開催国が、事実上サウジアラビアに決まったようである。
先月、FIFAがアジア連盟(AFC)かオセアニア連盟(OFC)加盟国からの立候補を受け付けると発表。すると、すぐにサウジアラビアが立候補を表明。これを受けてAFCがサウジアラビア支持に動き、日本サッカー協会の田嶋幸三会長も早々に「サウジアラビア支持」を表明(あまりの反応の早さに驚かされた)。
その後、開催に興味を示していたオーストラリアが立候補断念を発表したため、サウジアラビア開催が事実上決まったのである(正式決定は、2024年のFIFA総会で決定)。
まるで、FIFAとサウジアラビアの間での「出来レース」のようにさえ見えた。
そもそも、48か国開催のワールドカップを1か国で開催することは、もはや不可能に近い事業だ。
2026年大会はアメリカ、メキシコ、カナダの3か国による共同開催。2030年大会は、サッカー大国でスタジアムなどの施設がそろったスペインとポルトガルにモロッコによる共同開催となり、さらにワールドカップ100周年を記念してウルグアイ、アルゼンチン、パラグアイで開幕戦を行うことになっている。
2034年大会がアジア、オセアニアでの開催となったのは、26年大会が北中米カリブ海連盟(CONCACAF)での開催で、30年大会がヨーロッパ(UAFA)、アフリカ(CAF)、南米(CONMEBOL)での開催となったからだ。
そんな大規模な大会を1か国で開催できるのは、天然資源(サウジアラビアの場合は原油)から“無尽蔵”といってもいいほどの収入があるごく一部の国だけだ。
こうして、2022年にカタールで開催されたワールドカップは、わずか12年後に再び中東産油国に戻ってくることになった。FIFAが今後もワールドカップの大規模化を続けるつもりだったら、いつの日かワールドカップは中東での永久開催となってしまうだろう(石油資源が枯渇するか、世界が石油や天然ガスに代わる代替エネルギーを手にするまでのことではあるが)。