■郵便制度の起源

 日本にも江戸時代までの「飛脚」制度があったように、古代から人類はさまざまに遠くの仲間に意思を伝える何らかの「郵便制度」をもっていた。ペルシャやインド、ローマ、中国といった文明の先進地域では、紀元前からこうした制度があったという。

 しかし現在の世界にほぼ共通する近代的な郵便制度が始まったのは、19世紀半ばの英国でのことだった。それまで、英国では、手紙の受取人が距離に応じた料金を支払う形の郵便事業が行われていた。ところが「取りっぱぐれ」が横行し、困る事業者が多くなった。差出人が郵便物の表面に何か印をつけておき、あらかじめ受取人に「この印の手紙が着いたらこういう内容」と伝えておく。すると、受取人は郵便物の表面を見ただけで内容を知り、受け取り(すなわち郵便料金の支払い)を拒否するのである。

 そこでローランド・ヒルという人が「差出人払い」の制度を考案した。郵便を国家事業とし、通常の手紙(半オンス=約14グラム以内)なら、英国内のどこにでも1ペニー(現在の価値にすると、1ポンド=約182円ほどの感覚だったらしい)で送ることができるという画期的な制度だった。ヒルは「切手」の採用も提案、裏面に糊をつけ、表面には20歳そこそこの若きビクトリア女王の横顔を描いた1ペニーの切手がつくられた。

 1840年のことである。日本では幕末を迎える十数年前、飢饉や大塩平八郎の乱などで社会が騒然となり、水野忠邦が「天保の改革」を断行してぜいたくを禁じたりしていたころである。英国の郵便制度はこの後あっという間に世界に広まり、日本でも1871(明治4)年には「郵便役所」ができ、サービスが始まった。

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