■それぞれの事情

 ドイツでは、ブンデスリーガのキックオフ時間は長く土曜日の午後3時半とされていた。1963年に完全プロのブンデスリーガができる以前は、地域リーグが最上位のリーグであり、仕事をもっている選手もいたので、試合は日曜日に行われていた。

 イタリアでは、セリエAは日曜日の午後3時キックオフと決まっていた。スペインでは、夏の暑さが最大の敵であり、午後は「シエスタ」の時間なので、試合は日曜日の夕刻と決まっていた。

 こうしてどの国でも、それぞれの事情に合わせてプロトップリーグのすべての試合が「同時刻キックオフ」で行われていたのは、当時のプロサッカーがテレビの生中継とは相いれない関係にあったことと密接に結びついている。1980年代まで、イングランドではリーグの生中継は原則としてなかった。「テレビ中継されると入場者が減る」という考えが支配的だったのだ。それは世界のサッカークラブのオーナーたちの「常識」だった。

 1964年に始まったBBC(英国国営放送)の「マッチ・オブ・ザ・デイ」は、毎週イングランド1部からベスト・マッチを選び、その「ロング・ハイライト」を約30分間紹介し、他の試合結果を伝えるというものだった。テレビ受像機の普及が進んでいなかったこともあり、当初の視聴者数はわずか2万人だったというが、次第に話題になり、人気を博していく。

 ところが2シーズン目を前に、いくつかのクラブがこの放送に猛反対し、早くも暗礁に乗り上げてしまう。結局BBCは、どの試合がこの番組に取り上げられるかの発表を試合が終わった後にしか行わないという約束をして、放送続行にこぎつけた。

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