大住良之の「この世界のコーナーエリアから」第117回「試合は何時から?」(2)サッカーの常識を変えた1990年代のテレビ放映の画像
キックオフ時刻の決定も、簡単なことではない(写真はイメージです) 撮影:中地拓也

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような、「超マニアックコラム」。今回は「え? きょうは7時半キックオフじゃなかったの?(by 7時10分に記者席に到着したベテランサッカー記者)」

■サッカーの母国では「土曜午後3時」

 サッカーの母国英国では、プロのサッカー試合のキックオフは伝統的に「土曜日の午後3時」ということになっていた。この伝統をつくったのは、いまはスコットランド協会の所有になっているハムデンパーク・スタジアムを100年間以上所有していた「クイーンズ・パークFC」だったと言われている。1867年の創設時から2019年まで、なんと1世紀半以上、「アマチュア」のステータスを守ったクラブである。そのアマチュアが、スコットランドだけでなくイングランドでもプロサッカーの伝統的なキックオフ時間を決めたのだ。

 英国では、宗教的な理由で日曜日にはサッカーの試合はしないことになっていた。サッカーファンの中心をなすのは工場労働者たちである。1850年に「工場法」が改正され、土曜の午後は仕事が休みになった。そのファンに都合がいいのが土曜の午後3時。仕事が終わってからスタジアムにかけつけ、終わって帰れば家族との団らんを過ごすこともできるのである。英国のプロサッカーは、古い言葉で言えば「半ドン」、土曜の午後が休みになったことで根づいたということが言える。

 ただ、1888年秋に「フットボールリーグ(今日のプレミアリーグ)」が始まったとき、その開幕日に行われた6試合のキックオフ時刻は統一はされていなかったようだ。最も早かったアストンビラ対ウォルバーハンプトン・ワンダラーズは午後3時半キックオフで、他は3時50分など、そろってはいなかった。だがやがて「土曜午後3時」に固定され、それが100年近く続いた。

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