■ソウルの飲み屋にて
そんなある夜の話です。
やはり寒い夜でした。日本から韓国を訪れたジャーナリストやカメラマン仲間と連れだって、ソウルの飲み屋に行って飲んでいたのです。韓国は、まさに酒飲みにとっては天国のようなところ。麦酒(ビール)や焼酎をしこたま飲んですっかり酔っ払ってしまいました。
店内は、あちこちで大声を上げる人がいてワァワァという騒ぎです。当然、僕たち日本人のテーブルも大声になっていきました。そして、話題はなぜか北朝鮮の話になっていったのです。
1948年に建国された韓国(大韓民国)は1950年6月から53年まで北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)と激しい戦争を戦いました。そして、韓国では1961年に朴正熙(パク・チョンヒ)将軍がクーデタを起こして以来長く軍事政権の時代が続いていました。1987年に行われた民主的な大統領選挙に当選した盧泰愚(ノ・テウ)大統領もやはり軍人出身でした。野党政治家の金泳三(キム・ヨンサム)氏が大統領に就任したのは、1993年のことでした。
一方、北朝鮮では1994年のアメリカ・ワールドカップの最中に建国の父である金日成(キム・イルソン)国家主席が亡くなって、息子の金正日(キム・ジョンイル)総書記が権力を握ったばかりの頃でした。
韓国は1990年にソ連(ソビエト連邦)と、1992年に中国とようやく国交を樹立したものの、1996年といえばまだまだ北朝鮮とは激しい対立を続けていた時代です。1953年に停戦協定が発効したものの、今でも法律的には両国は戦争状態にあります。