■源はイングランド

 しかし世界を歩くと、さまざまなピッチに出くわす。かつて欧州では、練習グラウンドでよくアンツーカーのピッチを見た。高温で焼き固めた土を粉砕してつくるレンガ色の「人工土」による舗装で、水はけがよく、多少の雨なら問題なくプレーすることができた。ただ、転んだりスライディングをするとどうなるかは、誰でも想像がつくだろう。

 今世紀にはいっての傾向は、人工芝ピッチの急速な普及だ。日本でも、使用頻度の高い練習グラウンドやグラスルーツのグラウンドでどんどん人工芝化が進んでいる。そして世界を見ると、寒冷地などでは人工芝のピッチをもつスタジアムは珍しくない。

 だがそれでも「サッカーは天然芝」なのである。天然芝の上でのプレーが気持ちがいいのは言うまでもない。しかし私は、サッカーと芝生のかかわりは、この競技がイングランドで誕生したという事実こそ、決定的要因なのではないかと思っている。

 イングランドは「芝生の国」である。空き地があれば、そこには自然に芝生がはびこり、やがて全体を覆ってしまう。グレートブリテン島はメキシコ湾流に洗われて冬でも暖かく、夏も平均気温が20度、年間を通じて少量の雨が降るという気候に恵まれている。この気候こそ、芝生にとって「天国」なのである。

 当然、公園も、学校のグラウンドも、すべて緑の芝生に覆われている。フットボールという競技の起源は中世の町同士のケンカのようなイベントだったが、スポーツとしての成立の直接的な起源は18世紀から19世紀にかけての「パブリック・スクール(私立の寄宿制学校)」での競技だった。それぞれの学校でそれぞれの校庭などの事情に応じた「フットボール」がプレーされ、彼らが卒業して大学生になったとき「統一ルールをつくろう」という動きが生まれたのである。それが1863年に「フットボール・アソシエーション」の結成に結びつき、近代スポーツとしてのサッカーが誕生する。

 こういう経緯なら、「グラウンドは芝生」などと規定する必要など何もない。そもそも、公園など競技が可能な平らで広い場所を求めたら、そこは必ず芝生に覆われていたからである。最初は公園の広場でプレーし、やがて観客が押しかけるようになってそこに柵がつくられ、そしてスタジアムが生まれた。すなわち、サッカーと芝生の関係は、サッカースタジアムの誕生以前からのものということになるのである。

(3)へ続く
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