■効率的な動き方
逆に、すっかり西洋化した現在の日本人には、「なんば」は難しいものになってしまった。
近代化以前の、近代的な交通手段がなかった時代には人が歩いたり、走ったりするのが最も速い移動手段だった。そんな時代に長距離を体力を浪費せずに歩くためには、日本式の「なんば」が有効だった。
西洋式の歩き方が左右の脚と腕を使って体をひねることでパワーを生み出して、筋力を使って歩くのに対して、日本式の歩き方は体を倒すことで重力を利用して、それを推進力に変えて使った。
人が乗る籠を担ぐのが「駕籠かき」という職業だ。彼らは、体を半身にしてやはり体が前方に倒れる力を利用して歩いたと言われている。僕も実際に試してみたのだが、習熟度が低いにも関わらず、たしかにエネルギーをそれほど消費しない割にスピードを出すことができた。
僕は、久保建英がうまく体重の移動の力と回転力を使ってボールにエネルギーを伝える姿や、競り合いの場面で体をうまく使って相手のパワーをそらしてボールをコントロールする姿を見ながら、そんな日本式の体の使い方、あるいは武術との共通性を感じたのである。
もっとも、武道や武術に関しては、僕は専門家ではない。どころか、まったくの素人なのでこれ以上に詳しいことは言えないのだが、日本人選手がヨーロッパやアフリカの選手と競り合う際には、筋力やパワーではないところで勝負した方がいいと思うし、武道や武術の動きには何かヒントになるものが隠されていそうな気がするのである。