■日本人独特の体の使い方

 柔道や柔術、剣術、合気道、空手など日本の武道や武術というのは、自分の筋力で相手を倒すのではなく、相手の力をうまく利用して相手を制圧するというのが基本となっている。

 攻撃の場合の「突き」にしても、腕力によるパワーで相手を倒すのではなく、自分の体をコントロールして、体重を移動させることによって「突き」の速さを増して、威力を強めたりする。それが、日本の武道である。

 伝統的な(近代以前の)日本人の体の使い方は、西洋のそれとはかなり異なったものだったようだ。

「なんば」という言葉を聞いたことがある方も多いだろう。日本古来の伝統的な歩き方である。

 西洋式の歩き方は、現代の日本人とってはお馴染みである。右脚を前に踏み出す時には左腕を前に振る。左脚を踏み出す時には、逆に右腕を前に出す。こうして、筋力を使って体をひねるような動きによってエネルギーを生み出し、それを地面に伝えて歩いているのだ。短距離走でも、腕の振りは非常に重要である。

 それに対して、日本古来の「なんば」では右脚を前に出す時には同時に右腕を前に出すのだ。あるいは、腕を体に付けた状態にしてほとんど振らなくてもいい。

 これが、近代以前の日本人にとっては当たり前の歩き方だった。

 だから、明治の初めに軍隊で左右の脚と腕を交互に動かす西洋式の歩行が取り入れられた時には日本人はそれに慣れるのにかなり苦労したと伝えられている。近代スポーツに親しむのに時間がかかったのもそのせいだったのかもしれない。

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