■ボレーの正しい定義
スピードを持って飛んできたボールにワンタッチで直接足を合わせるのが、本来の「ボレーキック」である。
その場合はボールの持っている運動エネルギーを利用することができるので、足を合わせるだけで(正確にミートポイントに合わせることができれば)、十分に速いボールを蹴ることができる。足を合わせるには、面をしっかり作って当てる方法やボールの下を切るように当てる方法があるが、いずれにしてもボールの運動エネルギーを利用して蹴る技術である。
ボールのスピードが速ければ速いほど、キックしたボールの初速も速くなるわけだが、その分だけ正確に合わせるのが難しいということになる。
一方、あのエスパニョール戦のようにボールが完全に浮いて静止しているような状態でキックする時には、キッカー自身の力によってボールにエネルギーを与えないとスピードボールを蹴ることは難しいはずだ。
ところが、久保が放ったシュートは低い弾道を描いて、GKの手を弾いて高速でニアサイドのネットに突き刺さっている。
つまり、足を大きく振るのでなく、うまく合わせただけのように見えながら、久保はボールに大きなエネルギーを伝えることができていたというわけだ。
あの場面で、ボールを浮かせた後、久保は右脚を軸足にして体重を乗せ、腰の位置を前方に動かして重心を前に移動させながら、その腰を軸として体全体を大きく回転させながら足を振っている。つまり、重心の移動と回転によるモーメント、そして足を振る力を合わせて大きなエネルギーを生み出してボールを叩いたことで速いボールを蹴ったわけだ。
脚だけでなく、体全体をうまく使って大きなエネルギーを生み出したのだ。