川崎フロンターレの二次合宿10日目、2月2日の午前練習中のこと。攻撃陣と守備陣とに分かれ、戦術的な練習での出来事だった。
ピッチ上の選手同士の激しさとは裏腹に、張り詰めた空気特有の静けさの中、おもむろに「トオヤ(名願斗哉)、行けよ!」との声が聞こえてきた。声の主は車屋紳太郎。名願と対峙する相手選手の周囲にはスペースが生まれており、複数の選択肢が取れる状況にあった。そのまま放置してしまうとドリブルにパスにクロスと何でもできる状況で、それらの選択肢をいかに削れるのか。圧力をかけて精度を落とすことができるのか。そうするために、名願はプレスに行く必要があった。車屋の的確な一言だった。
この場面に限らず車屋がピッチ上でかけている声が聞こえてくることが増えている。谷口彰悟の移籍後、車屋は年長者の一人として、少なくともディフェンス陣のリーダー的な役割を果たそうとしてきている。それは例えば1月17日の取材時のこの言葉から明らかだ。
「声を出すところとか、そういうところはショウゴ(谷口彰悟)さんはやってましたし、そういうのは自分がリーダーだと思って、ディフェンスラインを引っ張っていけたらいいかなと思います」