■流れを変えた交代策
フランスのディディエ・デシャン監督が前半41分という早い時間に「2枚替え」を断行し、オリビエ・ジルーとウスマヌ・デンベレに代えてランダル・コロ・ムアニとマルクス・チュラムを送り込んだのが、この試合の最大の分岐点だったかもしれない。前半のうちに3点差になっていたら、試合はそこで終わっていただろう。それを回避するための交代だった。
デシャン監督は後半26分には2回目の「2枚代え」を断行する。今度は左サイドバックのテオ・エルナンデスとこの大会の「陰のMVP」とも呼ばれたアントワーヌ・グリーズマンを外し、エドゥアルド・カマビンガとキングスレー・コマンを入れたのだ。
この時間帯になるとさすがにアルゼンチンの「超ハードワークトリオ」の運動量が落ち、フランスの「フレッシュな足」が機能し始める。そしてPKが生まれ、キリアン・ムバッペのスーパーゴールが決まって試合は突然「ドラマ」になった。
「史上最高の決勝戦」ではなかったかもしれない。しかし「史上最もエキサイティングな決勝戦」ではあったのは間違いない。世界中のサッカーファンが寝るのも忘れ、あるいは食事もほったらかしにして、この試合に引きつけられたのではないか。その立役者は、サッカー史に残る天才選手であることを自ら証明したメッシ、驚異的なハードワークを見せたアルゼンチンの選手たちとともに、困難そのものの状況を適切な選手交代で変えていったデシャンの類いまれな頭脳だった。
1998年から7大会続いた「32チーム制ワールドカップ」の最後の大会となったカタール2022。クロアチアとモロッコが奮闘し、多くの人が「絶対」と見ている「エリートクラス」への真っ向からの挑戦が可能性に満ちたものであることを証明したことが、大きな特徴だった。そこには、ドイツとスペインを破って世界を驚かせた日本の活躍も含まれている。
そしてその一方で、アルゼンチンとフランスの決勝戦は、世界の頂点に立つには、神から与えられた特別な才能をもつ選手が最高のプレーをしてチームを支えなければならないことも、あらためて証明した。