■鬼気迫る決勝での戦いぶり

 3位決定戦はたしかに両チームの気持ちがぶつかり合った感動的な試合だったが、アルゼンチン対フランスの決勝戦を見た今となっては、遠い過去のような気がする。長い歴史を背負った両国の戦いはまさに鬼気迫るものだった。

 超一流の選手がチームのために献身的にプレーし、そして、リオネル・メッシキリアン・ムバッペという特別な選手たちがそれぞれ輝いた試合だった。

 両チームの監督がメッシやムバッペに守備の負担を免除して戦うことができたのは周囲のレベルが高かったからだし、同時に何もないところからゴールを生み出せるメッシやムバッペがいなかったら、両チーム、とくにアルゼンチンの決勝進出はなかったかもしれない。メキシコ戦でのメッシの先制ゴールは初戦で敗れたアルゼンチンを救ったし、ポーランド戦のムバッペの2ゴールも驚くべきものだった。

 その両チームが戦った決勝戦。アンヘル・ディマリアの右サイド起用とか、フランスのディディエ・デシャン監督の驚くような選手交代など、技術的にも戦術的にも語りたいことはいくつもあったが、何よりも両チームのすべての選手の気持ちの強さは並外れていた。

 では、両チームの選手たちはいったい何のために戦っていたのだろうか? 「祖国のため」ではなさそうだ。もちろん、自分個人のためではない。

 優勝したアルゼンチンの選手たちは「アルゼンチン・サッカーの伝統と誇り」のために戦っていたのではないだろうか?

 ショートパスをつないで展開するアルゼンチン・スタイルのサッカーが確立されて世界のサッカーをリードする地位を確立した1920年代から数えて約100年間紡いできたアルゼンチンのサッカー伝統。彼らは、そのために戦っていたのではないだろうか?

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